意匠法 第29条の3(意匠権の移転の登録前の実施による通常実施権)
クイックジャンプ
- 第二十六条の二第一項の規定による請求に基づく意匠権の移転の登録の際現にその意匠権、その意匠権についての専用実施権又はその意匠権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者であつて、その意匠権の移転の登録前に、意匠登録が第四十八条第一項第一号に規定する要件に該当すること(その意匠登録が第十五条第一項において準用する特許法第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は第四十八条第一項第三号に規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠権について通常実施権を有する。
- 2.当該意匠権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。
この条文の基本情報
意匠権の移転の登録前の実施による通常実施権とは何ですか?
定義意匠権の移転の登録前の実施による通常実施権とは、意匠法第29条の3に定められた規定で、「第二十六条の二第一項の規定による請求に基づく意匠権の移転の登録の際現にその意匠権、その意匠権についての専用実施権又はその意匠権若しくは専用実施権についての通常実…」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 意匠法第29条の3(意匠権の移転の登録前の実施による通常実施権)は、日本の意匠法に含まれる条文です。
- 意匠法第29条の3の条文原文は「第二十六条の二第一項の規定による請求に基づく意匠権の移転の登録の際現にその意匠権、その意匠権についての専用実施権又はその意匠権若しくは専用実施権についての通常実…」で始まります。
- 意匠法第29条の3は第一節に置かれています。
- 意匠法の公布日は昭和34年4月13日です。
- 意匠法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 意匠法第29条の3の前の条は意匠法第29条の2です。
- 意匠法第29条の3の次の条は意匠法第30条です。
- 意匠法第29条の3には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第29条の3 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000125 - 本サイト収録
意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第29条の3(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/334AC0000000125/29_3
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点意匠法29条の3は、意匠権の移転登録前から欠陥を知らずに実施していた善意の事業者に、移転後の権利者に対する通常実施権(中用権)を認める。ただし相当の対価の支払義務を負う。
Q · ライセンスを受けた意匠権が真の権利者に移ってしまったら、工場は止めるしかないの?
止めなくてよいが相当の対価を払う義務がある
意匠法29条の3により、意匠権の移転登録の前から、登録に冒認や共同出願違反の欠陥があることを知らずに当該意匠を実施し、又は実施の準備をしていた善意の事業者は、移転後の意匠権者に対して通常実施権(中用権)を持ちます。工場や生産ラインを止める必要はありません。ただし2項により新しい権利者は中用権者から相当の対価を受ける権利を持つため、実施料相当額を支払う義務が生じます。保護される範囲は移転登録時点で実施・準備していた意匠と事業の目的の範囲に限られます。
解説
意匠権は土地の登記に似ている。登記簿上の名義人がいても、本当の所有者が別にいれば、後から名義は書き換わる。意匠の世界でも同じことが起きる。他人の意匠を勝手に出願した冒認、あるいは共同で創作したのに単独で出願した共同出願違反。こうした欠陥のある意匠登録は、真の権利者の移転請求(26条の2)によって名義が移る。問題は、その名義の上で正規にライセンスを受け、金型を作り、量産し、在庫を抱えてきた善意の事業者だ。名義が移った瞬間、その事業は無権利者から得た権利の上に乗っていたことになる。29条の3は、この崩落からあなたを救う。移転登録の前から、登録の欠陥を知らずに実施または準備していたなら、あなたは新しい権利者に対して通常実施権を持つ。工場は止めなくていい。ただし相当の対価は払う義務がある。
法的な位置づけ
意匠法29条の3が定める中用権とは、冒認出願または共同出願違反を理由とする意匠権の移転登録の前から、その登録の欠陥を知らずに国内で当該意匠又は類似意匠を実施し、又は実施の準備をしていた者に、実施及び事業の目的の範囲内で認められる法定の通常実施権をいう。
手順・フロー
AI による整理。効力は条文原文が基準です
手順
- 1.移転登録の日付と自分の実施開始日を確認 意匠登録原簿で移転登録の事実と日付を確認し、自分の実施開始日または準備開始日がそれより前であることを特定する。中用権は「移転登録前からの実施」が生命線
- 2.欠陥を知らなかったこと(善意)を示す資料を整理 移転の原因となった欠陥(冒認か共同出願違反か)を自分が知らなかったことを、ライセンス契約書や取引経緯、表明保証条項などで裏付ける。善意の立証は中用権成立の要件
- 3.実施・準備の範囲を日付入り証拠で固定 移転登録時点で現に実施または準備していた意匠と事業の目的の範囲を、金型発注書、量産記録、設備投資契約、在庫の入出庫データで日付付きに固める。範囲外への拡大分は守られない
- 4.新権利者に中用権を通知し対価協議に入る 新しい意匠権者に中用権の保有を書面で通知し、相当の対価の協議に入る。慌てて生産を止めないこと。先に適法な立場を示すと相手の戦略が差止めから対価交渉へ振れる
よくある質問 AI による整理
Q1中用権とは何ですか?
移転前から善意で実施していた者に法律上当然に与えられる通常実施権です。意匠法29条の3が根拠で、意匠権が真の権利者に移った後も事業を続けられます。
Q2中用権と先使用権の違いは?
先使用権(意匠法29条)は出願前からの実施を守る権利、中用権(29条の3)は移転登録前からの実施を守る権利です。守る基準時点が異なります。
Q3冒認出願とは何ですか?
意匠登録を受ける権利のない者が、他人の意匠を勝手に出願することです。真の権利者は意匠法26条の2で意匠権そのものの移転を請求できます。
Q4意匠権の移転請求はどうやってするのですか?
冒認出願や共同出願違反を理由に、真の権利者が意匠法26条の2に基づき裁判で意匠権の移転を請求します。認められると名義が移転登録されます。
Q5中用権の相当の対価はどう決まりますか?
まず当事者の協議で決めます。相場は同種意匠の通常の実施料率が目安で、協議が決裂すれば最終的に裁判所が額を定めます。
Q6共同出願違反とは何ですか?
共同で創作した意匠を、他の共有者の同意なく一人で出願することです。意匠法15条が準用する特許法38条に反し、移転請求の対象になります。
Q7中用権は登録が必要ですか?
不要です。要件を満たせば移転登録の時点で法律上当然に発生します。登録がなくても移転後の権利者に対抗できる法定実施権です。
Q8意匠権を取り戻したのに相手が使い続けられるのはなぜですか?
相手が移転登録前から善意で実施していれば中用権が成立するためです。取り戻した側は差止めができず、相当の対価を請求できるにとどまります。
この条文についての質問 AI による整理
Q1正規にお金を払ってライセンス契約したのに、なんで権利が他人に移るなんてことが起きるんですか?
あなたがライセンスを受けた相手が、そもそも意匠登録を受ける権利のない人だった場合に起きます。他人の意匠を勝手に出願した冒認や、共同創作なのに単独で出願した共同出願違反がこれにあたり、真の権利者は意匠法26条の2で意匠権そのものの移転を請求できます。実務のポイント:あなたの契約相手が適法でも、その上流に欠陥があれば連鎖して崩れます。ライセンス契約書に「ライセンサーが正当な権利者であること」を表明保証させ、違反時の補償条項を入れておくかどうかで、いざという時の損失の負担先が変わります
Q2中用権があれば、新しい権利者にお金を払わずにそのまま使い続けられるんですよね?
事業を止められない点はその通りですが、無償ではありません。意匠法29条の3第2項により、新しい権利者は中用権者から相当の対価を受ける権利を持ちます。つまり実施料相当額を払い続ける関係になります。実務のポイント:対価の額は当事者の協議が原則で、相場感を持たない側が不利になりがちです。同種意匠の通常の実施料率や、過去の和解事例を押さえておくと、言い値で押し切られるのを防げます。協議が決裂すれば最終的に裁判所が額を定めます
Q3うちはまだ製品を売り出してなくて、金型を発注して準備していた段階なんですが、それでも守られますか?
守られる可能性があります。条文は「事業をしているもの」だけでなく「その事業の準備をしているもの」も明記しており、現実の製造販売前でも、即時に実施する意図が客観的に認められる準備があれば中用権の対象です。実務のポイント:どこからが法的な準備かは争点になりやすく、単なる構想やアイデア段階では足りません。金型の発注書、量産用の設備契約、具体的な販売計画など、後戻りしにくい投資の記録を日付付きで残しているかが分水嶺になります
間違えやすい点 AI による整理
- あなたから見れば、正規の契約書を交わし対価も払った完全に適法なライセンスだ。だが法律から見れば、無権利者から借りた権利、つまり砂上の楼閣でしかない。この落差に気付かないまま投資を膨らませると、移転が起きた日に投資全体が法的根拠を失う。29条の3を知っているかどうかが、その落差を生き延びる分岐点になる
- 「中用権があるなら、これまで通りタダで続けられる」と考えがちだが、深刻なのはその先だ。あなたは新しい権利者に相当の対価を払い続ける義務を負う(2項)。しかも保護される範囲は、移転登録時点で現に実施または準備していた意匠と事業の目的の範囲内に固定される。事業を拡大した分は守られない。中用権は事業を止めない権利であって、無償で自由に使える権利ではない
- 「移転されたら全部止めるしかない」と思い込む人が多いが、逆だ。善意でかつ移転登録前から実施していれば、新しい権利者は原則あなたを止められない。慌てて生産ラインを畳む前に、自分が中用権の要件を満たすかを確認すべきだ。知らずに自主的に撤退すると、本来守られた事業を自ら手放すことになる
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 守る基準時点 | 29条の3:意匠権の移転登録の「前」からの実施 | 29条:意匠登録出願の「際」現に日本国内での実施(先使用) 29条の2:無効審判請求の登録「前」からの実施 |
| 発生の前提 | 26条の2による移転請求と移転登録+実施者の善意 | 他人の出願前からの独自の実施・準備 無効理由の存在を知らない実施+無効審判請求 |
| 対価の要否 | 有償:新権利者に相当の対価を支払う義務(2項) | 原則無償の法定通常実施権 有償:相当の対価の支払義務あり |
| 保護範囲 | 移転登録時に実施・準備していた意匠と事業の目的の範囲内 | 出願時に実施・準備していた意匠と事業の目的の範囲内 請求登録時に実施・準備していた意匠と事業の目的の範囲内 |
他国ではどう定めているか 4 か国
台湾は設計を専利法で保護し、先使用權および真正権利者の申請権を定める。移転に伴う善意実施者保護の枠組みは日本の中用権に近い機能を持つ。
韓国デザイン保護法は日本の意匠法を範とし、冒認出願等に対する移転請求と善意実施者の通常実施権について近似の枠組みを持つ。
ドイツは登録意匠について先使用権を認めるが、移転に伴う中用権という形での明文の類型は日本ほど整理されていない。
米国は再発行(reissue)に伴う intervening rights を認め、既存の善意実施者を保護する点で機能的に類似する。
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- もし、あなたが取引先から「この製品の意匠権、実は登録を受ける権利のない人が出願したもので、本当の権利者に移転されました」と告げられたら、どうなるのか。あなたが金型を作り量産してきたその製品は、いきなり差止請求の対象に見える。だが移転登録の前から欠陥を知らずに実施していたなら、29条の3の通常実施権で事業は守られる。問われるのは「いつから」「何を知っていたか」だけだ
- あなたは製造業の経営者で、フリーのデザイナーから意匠のライセンスを受けて新シリーズを量産している。そのデザイナーが、実は前職の会社と共同で創作した意匠を単独で出願していた。会社が共同出願違反を理由に移転請求。あなたはライセンス元が無権利者だったと後から知る。それでも、移転登録前から善意で実施していた事実があれば、新しい権利者に対価を払いつつ製造を続けられる
- 意匠権を譲り受けた側に立つこともある。あなたが真の創作者として冒認者から意匠権を取り戻した。ところが市場には、その意匠を堂々と売り続ける会社がある。差止めできると思いきや、相手が中用権者であれば止められない。あなたにできるのは相当の対価を請求することだけだ
- 共同開発のパートナーと喧嘩別れし、相手が成果物の意匠を勝手に出願していたと発覚。あなたが移転請求を起こすまで残り時間はわずか。その間に相手が下請け工場へライセンスを撒いていれば、移転後もその工場の中用権は消えない。移転請求のスピードが、奪い返せる権利の「きれいさ」を左右する
取るべき行動
被害を受けた側:1. 移転登録の事実と日付を意匠登録原簿で確認し、自分の実施開始日がそれより前であることを特定する2. 移転の原因となった欠陥(冒認か共同出願違反か)を自分が知らなかったことを示す資料、契約書や取引経緯を整理する3. 移転登録時点で現に実施または準備していた意匠と事業範囲を、量産記録・設備投資契約・在庫データで固める4. 新しい権利者に中用権の保有を書面で通知し、相当の対価の協議に入る。慌てて生産を止めないこと、止めれば守られた事業を自ら手放すことになる
訴えられた側:1. あなたが移転請求で意匠権を取り戻した側なら、市場に中用権者がいる前提で対応を組む2. 相手が本当に移転登録前から善意で実施していたかを精査、悪意や登録後の事業拡大があれば中用権の範囲を争える3. 中用権が成立する範囲については差止めを諦め、2項に基づく相当の対価の請求に切り替える4. 対価の算定根拠(通常の実施料率、業界相場)を準備し、過大でも過小でもない金額で早期に合意を目指す
時効(請求できる期限):中用権は移転登録の時点で要件を満たせば法律上当然に発生し、行使に特定の時効はない。ただし2項の相当の対価を受ける権利は債権であり、特定の時効規定がない以上、一般消滅時効(民法166条、権利行使できると知った時から5年または権利行使できる時から10年)が適用される(最新の改正状況をご確認ください)
学説
通説:意匠法29条の3の中用権は、真の権利者への意匠権回復(26条の2)を認めつつ、移転前の名義を信頼して投資した善意の実施者の事業継続を保護する調整規定と解される。無償の先使用権(29条)と異なり、相当の対価の支払義務を課すことで両当事者の経済的利益を再配分する点に特徴がある。
改正沿革 AI による整理
- 平成23年(2011年)改正 冒認出願・共同出願違反に対する意匠権の移転請求制度(26条の2)の新設に合わせ、移転登録前から善意で実施していた者を保護するため本条を新設。特許法79条の2と同趣旨の中用権を意匠法に導入した
改正の年表
- 1.平成23年(2011年) 新設:冒認出願・共同出願違反に対する意匠権の移転請求制度(26条の2)の新設に合わせ、移転登録前から善意で実施していた者を保護するため本条を新設。特許法79条の2と同趣旨の中用権を意匠法に導入した。
ログインすると、この条文にメモを残して他の利用者と共有できます。
ログインして共同ノートを始める