民法 第511条(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
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- 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
- 2.前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
この条文の基本情報
差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止とは何ですか?
定義差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止とは、民法第511条に定められた規定で、「差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗する…」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 民法第511条(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)は、日本の民法に含まれる条文です。
- 民法第511条の条文原文は「差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗する…」で始まります。
- 民法第511条は第二款に置かれています。
- 民法の公布日は明治29年4月27日です。
- 民法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 民法第511条の前の条は民法第510条です。
- 民法第511条の次の条は民法第512条です。
- 民法第511条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
民法(明治二十九年法律第八十九号)第511条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 本サイト収録
民法(明治二十九年法律第八十九号)第511条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/129AC0000000089/511
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点民法511条は、差押え前に取得した反対債権なら差押え後でも相殺で差押債権者に対抗できると定める。差押え後取得でも差押え前の原因に基づくものは相殺できる。
Q · 売掛金を回収しようと相手の預金を差し押さえたのに、銀行に相殺されてしまうのはなぜ?
銀行が差押え前から貸付金を持っていれば相殺が優先するため
民法511条1項により、第三債務者(銀行)が差押え前から反対債権(貸付金)を持っていれば、差押え後であっても相殺で差押債権者に対抗できます。最高裁も無制限説を採り(最大判昭和45年6月24日)、2017年改正で明文化されました。さらに2項により、差押え後に取得した債権でも『差押え前の原因』に基づくものなら相殺可能です。ただし差押え後に他人の債権を譲り受けて相殺に充てることは2項ただし書で禁止されています。
解説
取引先に貸した金が返ってこない。そこで相手の銀行口座を差し押さえた。これで回収できると思った瞬間、銀行から一通の通知が届く。「当行も御社の取引先に融資しており、その貸付金とこの預金を相殺しました」。あなたの差押えは空振りに終わる。民法511条は、この「差押えと相殺」のどちらが勝つかを決める条文だ。原則として、第三債務者(ここでは銀行)が差押え前から持っていた反対債権であれば、差押え後であっても相殺で差押債権者に対抗できる。さらに2017年の債権法改正で2項が加わり、差押え後に取得した債権でも「差押え前の原因」から生じたものなら相殺できると明文化された。つまり、あなたが差し押さえた債権は、第三債務者が水面下に持つ相殺権という見えない優先権に劣後しうる。差押えの順番だけ見ていると、勝ったはずの一手で足元をすくわれる。
法的な位置づけ
民法511条は、差押えを受けた債権の第三債務者による相殺と差押債権者の権利との優劣を定める規定である。第三債務者は、差押え前に取得した反対債権、または差押え前の原因に基づいて差押え後に生じた債権による相殺をもって差押債権者に対抗できる。ただし差押え後に他人から取得した債権による相殺は認められない。
手順・フロー
AI による整理。効力は条文原文が基準です
手順
- 1.差押え前に第三債務者の反対債権を調査 差押える前に、第三債務者が債務者に対して反対債権を持っていないかを調べる。銀行預金なら相手の借入の有無、取引先への売掛金なら相手とその第三債務者の与信関係を確認し、相殺で空振りしない差押え先を選ぶ
- 2.相殺通知が来たら反対債権の取得時期を精査 第三債務者から相殺通知が届いたら、その反対債権の取得時期を確認する。差押え前取得なら1項で有効、差押え後取得でも『差押え前の原因』に基づくか(2項本文)を検討する
- 3.差押え後の他人債権による相殺には対抗 第三債務者が差押え後に他人から債権を譲り受けて相殺してきた場合は、2項ただし書により相殺を否定できる。譲受の経緯と時期を立証して対抗する
- 4.回収不能なら早期に差押え先を切替 相殺が有効で回収不能と判明したら、別の差押え先や債務者の他財産(不動産・動産・他の売掛金)へ早期に切り替える。費用と時間を無駄にしない
よくある質問 AI による整理
Q1差押えと相殺 どっちが優先?
第三債務者が差押え前から反対債権を持っていれば相殺が優先します。差押えの早さより、反対債権の取得時期が決め手になります(民法511条1項)。
Q2第三債務者とは何ですか?
差し押さえられた債権の債務者を指します。例えば預金が差し押さえられた場合の銀行が第三債務者で、本来は債務者へ払う立場の者です。
Q3民法511条は改正で何が変わったの?
2017年債権法改正で無制限説が明文化され、さらに2項が新設されました。差押え前の原因に基づく後発債権でも相殺できると定められました。
Q4差押え前の原因とは何ですか?
差押え前に結んだ基本契約や保証関係など、後で発生する債権の基となる法律関係を指します。これに基づく後発債権なら相殺で対抗できます。
Q5預金を差し押さえても銀行に相殺されるのはなぜ?
銀行は差押え前から貸付金を持ち、差押えで期限の利益が喪失して即相殺できる契約設計のためです。借入のある銀行口座の差押えは空振りしやすいです。
Q6相殺の意思表示はどうやってする?
相手方への一方的な意思表示で行い、内容証明郵便など明確な方法が実務上推奨されます。相殺適状の時点と対当額を記録しておくべきです(民法506条)。
Q7無制限説と制限説の違いは?
無制限説は差押え前取得の反対債権なら弁済期の先後を問わず相殺可とし、制限説は弁済期の先後を要求します。最高裁は無制限説を採用しています。
Q8給料を差し押さえられたら相殺できる?
賃金を受働債権とする相殺は労働基準法24条の全額払い原則で強く制限され、511条の理屈がそのままは通りません。賃金は原則相殺できません。
この条文についての質問 AI による整理
Q1差し押さえたのに銀行に相殺されました。これって順番を無視していて、おかしくないですか?
おかしく見えても法的には適法です。511条1項は、第三債務者が差押え前から持っていた反対債権なら、差押え後でも相殺で差押債権者に対抗できると定めます。最高裁も差押えと相殺の優劣で第三債務者を広く保護する立場(無制限説)を採り、2017年改正で明文化されました。実務のポイント:銀行の預金規定や金銭消費貸借契約には、ほぼ必ず『期限の利益喪失約款』が入っています。差押えがあると借入が即座に全額弁済期になり、銀行は迷わず相殺できる設計。借入のある銀行口座を差し押さえても勝てない理由はここにあります
Q2差押え後に取得した債権なら、絶対に相殺できないんですよね?
そう単純ではありません。2項本文により、差押え後に取得した債権でも『差押え前の原因』に基づいて生じたもの(既存の基本契約・保証・委託関係から後に発生した求償権など)であれば相殺できます。ただし差押え後に『他人の債権』を譲り受けて相殺に充てることは2項ただし書で禁止です。実務のポイント:実務で勝負が分かれるのは『前の原因』の射程です。保証人が差押え後に弁済して取得する求償権は前の保証契約という原因から生じるとして相殺が認められやすい。この一点を主張できるかどうかで、第三債務者の回収可否が逆転します
Q3相殺と債権譲渡、両方くらった場合はどっちが優先されますか?
511条の差押えとの優劣と並んで、民法469条が債権譲渡における相殺の対抗を定めており、両者はほぼ同じ構造で取得時期と『前の原因』を基準にします。差押えでも譲渡でも、第三債務者は対抗要件具備前から持っていた債権、または前の原因に基づく債権で相殺できるのが原則です。実務のポイント:差押えと譲渡が競合する場面は実務で頻出ですが、第三債務者から見れば『どちらが来ても、自分の相殺権の基準時は変わらない』と整理できます。複数の請求が殺到しても、自分の反対債権の取得時期を一本の軸として動けば判断を誤りません
間違えやすい点 AI による整理
- あなたから見れば「先に差し押さえた者が勝つ」が、法律から見れば「先に反対債権を持っていた第三債務者が勝つ」。この落差を知らないまま差押えに踏み切ると、第三債務者の相殺一本で回収はゼロになる。差押えの早さより、第三債務者の手札の方が優先することがある
- 「差押え後に取得した債権なら相殺できない」とだけ覚えている人は、2017年改正で広がった射程を見落としている。2項により、差押え後に取得した債権でも『差押え前の原因』に基づくもの(既存の基本契約や保証関係から後で発生した債権など)なら相殺できる。原則と例外の境目を知っているかどうかで、攻守が逆転する
- 相殺できるかは「債権を持っているか」だけの問題だと思われがちだが、本当の争点は「いつ、どうやって取得したか」。差押え後に他人から債権を買ってきて相殺に充てる行為は、2項ただし書で明確に禁止されている。取得の経緯が、相殺の可否を分ける
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 規律する場面 | 民法511条:差押え後の第三債務者の相殺と差押債権者の優劣 | 民法510条:差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止 民法469条:債権譲渡における相殺の対抗 |
| 基準時 | 反対債権を差押えの前か後に取得したか(+ 差押え前の原因) | 債権の性質(差押禁止か否か)で一律判断 対抗要件具備の前か後に取得したか(+ 譲渡前の原因) |
| 結論 | 前取得・前の原因なら相殺で対抗可、他人債権の後取得は不可 | 差押禁止債権は受働債権として相殺できない 対抗要件具備前取得・前の原因なら相殺で対抗可 |
他国ではどう定めているか 4 か国
受扣押後に取得した債権をもって受扣押債権と相殺できないと定め、日本511条1項と同趣旨。差押え後取得の相殺を否定する点で構造が共通する。
支払を差し止められた債権を受働債権とする相殺の禁止を定める。差押え後に取得した債権による相殺を制限する点で日本法と類似する。
差し押さえられた債権に対する相殺を規律する。第三債務者が差押え前から有していた反対債権による相殺を保護する発想は日本511条の母法的位置にある。
ガーニッシュメント(債権差押え)に対する相殺は州法とコモンローの相殺法理で扱われ、差押え時点で成熟していた相互債権の相殺が認められるのが一般的。
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 売掛金を回収できず、相手の取引銀行の預金口座を差し押さえた。だがその銀行は相手に運転資金を融資していた。銀行は貸付金と預金を相殺し、あなたの差押えには一円も残らない。差押え前から存在した貸付金なら、銀行の相殺は完全に有効。回収戦略は、差し押さえる前の相手の借入状況の調査から始まる
- あなたが第三債務者の立場になることもある。下請けに代金を払う義務を負っているが、その下請けは過去にあなたから材料を前借りしていた。下請けの債権者から代金が差し押さえられたとき、あなたは前貸し分と相殺できる。差押え前から持っていた債権なら、後から来た差押債権者に対抗できる
- もし、差押えを受けた後で相手から新しい債権を譲り受けて相殺しようとしたら、どうなる? 2項ただし書がそれを止める。差押え後に「他人の債権」を取得して相殺に充てることは認められない。相殺で差押えを潰そうとする後付けの細工は、ここで封じられている
- 継続的取引の基本契約を結んでいる相手の債権が差し押さえられた。個々の発注は差押え後でも、その発注が差押え前に結んだ基本契約という「原因」から生じていれば、2項本文で相殺できる。あと数日で相殺の意思表示をするかどうかで、回収できる額が変わる
取るべき行動
被害を受けた側:差押債権者として相殺で空振りしないために。1. 差押え前に、第三債務者が債務者へ反対債権を持っていないか調査(銀行なら借入の有無、取引先なら相互の売掛・買掛関係) 2. 第三債務者から相殺通知が来たら、その反対債権の取得時期を確認、差押え後の取得なら2項の『前の原因』に該当するかを精査3. 差押え後に第三債務者が他人の債権を譲り受けて相殺してきた場合は、2項ただし書で対抗を否定できる4. 相殺が有効なら回収不能、別の差押え先や債務者の他財産へ早期に切り替える
訴えられた側:第三債務者として相殺権を有効に行使するために。1. 差押通知を受けたら、反対債権の取得時期と発生原因を直ちに整理、差押え前取得なら1項で堂々と相殺可2. 差押え後取得でも、基本契約や保証など差押え前の原因に基づくなら2項本文で相殺可3. 相殺の意思表示は内容証明等で明確に、相殺適状に達した時点と相殺の対当額を記録4. 差押え後に他人から債権を買って相殺する手は2項ただし書で封じられる、安易に頼らない5. 給与など受働債権の性質によっては労働基準法24条等の別の制約も確認
時効(請求できる期限):本条に特定の出訴時効はない。優劣の鍵は、相殺に供する反対債権を差押えの前後どちらで取得したか(2項では『差押え前の原因』の有無)であり、起算点は差押命令が第三債務者に送達された時。なお反対債権(自働債権)自体の消滅時効は一般原則(民法166条、債権は権利行使可能時から5年または権利発生時から10年)に従うが、508条により相殺適状が時効完成前に生じていれば、時効消滅後でも相殺に充てられる
学説
無制限説(通説・判例):差押え前に反対債権を取得していれば、自働債権・受働債権の弁済期の先後を問わず相殺で差押債権者に対抗できるとする立場。最高裁が採用し2017年改正で511条1項に明文化された。
制限説(旧判例・少数説):差押え時に自働債権の弁済期が受働債権の弁済期より先に到来する場合等に限って相殺を認める立場。昭和45年大法廷判決により判例上は変更された。
改正沿革 AI による整理
- 平成16年(2004年) 民法現代語化に伴う改正。旧条文の文語体(「支払ノ差止ヲ受ケタル第三債務者」等)を口語体に改めた。相殺と差押えの優劣に関する実質的内容は維持
- 平成29年(2017年)債権法改正 判例(最大判昭和45.6.24)が採用した無制限説を明文化し、差押え前に取得した反対債権なら差押え後でも相殺で対抗できることを1項で確認。加えて、差押え後に取得した債権でも『差押え前の原因』に基づくものは相殺できるとする2項を新設し、他人の債権を差押え後に取得した場合の相殺をただし書で排除した
改正の年表
- 1.平成16年(2004年) 改正:民法現代語化に伴う改正。旧条文の文語体を口語体に改めた。相殺と差押えの優劣に関する実質的内容は維持された。
- 2.平成29年(2017年) 改正:債権法改正。判例(最大判昭和45.6.24)の無制限説を1項で明文化し、差押え後取得でも差押え前の原因に基づく債権は相殺できる旨の2項を新設、他人の債権の後取得による相殺をただし書で排除した。
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