民法 第508条(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
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時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。
この条文の基本情報
時効により消滅した債権を自働債権とする相殺とは何ですか?
定義時効により消滅した債権を自働債権とする相殺とは、民法第508条に定められた規定で、「時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 民法第508条(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)は、日本の民法に含まれる条文です。
- 民法第508条の条文原文は「時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。」で始まります。
- 民法第508条は第二款に置かれています。
- 民法の公布日は明治29年4月27日です。
- 民法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年10月9日時点では廃止情報はありません。
- 民法第508条の前の条は民法第507条です。
- 民法第508条の次の条は民法第509条です。
- 民法第508条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
民法(明治二十九年法律第八十九号)第508条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 本サイト収録
民法(明治二十九年法律第八十九号)第508条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年10月9日)https://lawplayer.com/jp/article/129AC0000000089/508
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点民法508条は、時効消滅した債権でも、消滅前に相殺適状になっていれば相殺できると定める。相殺適状の到来が時効完成より前であることが要件で、順序が逆なら相殺はできない。
Q · もう時効になった自分の貸金でも、相手の請求とぶつけて帳消しにできるの?
相殺適状が時効完成より前なら、時効消滅後でも相殺できる
民法508条により、時効で消滅した債権でも、その消滅以前に双方の債権が差し引ける状態(相殺適状)になっていたなら、債権者はなお相殺できます。法律は、相殺適状の時点で「もう清算された」と信じた当事者の安心を保護しているためです。逆に、相殺適状が到来する前に自分の債権が時効消滅していた場合は508条を使えません。決め手は『相殺できる状態がいつ来たか』と『時効完成がいつか』の前後関係です。請求書を受け取って全額支払う前に、この順序を確認するかどうかで結論が真逆になります。
解説
数年前、友人に50万円を貸したとする。返ってこないまま時が過ぎ、半ば諦めていた。ところがある日、その友人があなたに「以前立て替えた30万円を返せ」と請求してきた。あなたは反射的にこう思う。「自分の貸金はもう時効だから、相手の請求にはそのまま払うしかない」。それが落とし穴だ。民法508条は、時効で消滅した債権でも、その消滅より前に相殺できる状態(相殺適状)になっていたなら、債権者はなお相殺できると定める。つまり、双方の貸し借りが同時に弁済期を迎えて差し引きできる状態にあった時点があれば、あなたの貸金が後で時効にかかっても、相手の30万円とぶつけて消せる。法律は「相殺適状になった当事者は、もう自然に差し引かれたものとして安心している」という期待を保護している。重要なのは順序だ。相殺適状が時効完成より前に到来していなければ使えない。逆に言えば、その一点さえ押さえれば、消えたはずの債権が最後の盾になる。
法的な位置づけ
民法508条は、消滅時効にかかった債権による相殺の特則を定める規定である。自働債権が時効消滅していても、その消滅以前に相殺適状(双方の債権が弁済期にあり対当額で差し引ける状態)が到来していた場合に限り、債権者はその債権を自働債権として相殺できる。相殺適状の到来が時効完成より前であることが適用の要件であり、当事者の清算期待を保護する趣旨に基づく。
よくある質問 AI による整理
Q1相殺適状とは何ですか?
双方が同種の債権を持ち合い、ともに弁済期を迎えて対当額で差し引ける状態をいいます。508条はこの状態が時効完成より前に来ていたことを相殺の要件とします。
Q2時効消滅した債権で相殺できますか?
原則できませんが、相殺適状が時効完成より前に到来していたなら民法508条で例外的に相殺できます。順序が逆だと使えません。
Q3民法508条をわかりやすく言うと?
差し引ける状態になった後に自分の貸金が時効で消えても、その貸金を相手の請求にぶつけて帳消しにできる、という時効の例外ルールです。
Q4相殺適状はいつ成立しますか?
双方の債権がともに弁済期に達し、性質上相殺が許される状態になった時点です。508条ではこの時点が時効完成前かどうかが決定的になります。
Q5時効を援用された後でも相殺できますか?
相手の援用は相手の債務を消すだけです。あなたの債権が消える前に相殺適状があったなら、援用後でも相殺の意思表示で対抗できます。
Q6相殺の意思表示はどうやってしますか?
相手方に対する一方的な意思表示で行い、到達で効力を生じます。証拠を残すため内容証明郵便で通知するのが確実です(民法506条)。
Q7借金が時効でも内容証明で相殺通知すべきですか?
相殺適状が時効完成より前に成立していたなら、支払う前に内容証明で相殺通知を出すべきです。一度払うと自働債権を使う機会を失います。
Q8貸倒れ処理した売掛金でも相殺できますか?
帳簿上ゼロにしても法的には消えていないことがあります。相殺適状が先行していれば、買掛金請求に対して相殺の武器として使える余地があります。
この条文についての質問 AI による整理
Q1相手の借金がもう時効だって言われたんですが、こっちの貸金で相殺ってできますか?
あなたの貸金(自働債権)が時効消滅していても、相手の債権と差し引ける状態(相殺適状)が時効完成より前に到来していたなら、508条で相殺できます。逆に相殺適状の前にあなたの債権が消えていたら使えません。実務のポイント:弁護士は依頼者の『もう諦めた古い債権』をまず棚卸しします。時効消滅していても相殺の盾になることが多く、満額払う前にこれを確認するだけで支払額が大きく変わる。請求書を受け取って慌てて払う前に、必ず自分の側の債権を洗い出す
Q2時効になった債権を知り合いから安く買い取って、それで相殺するのはアリですか?
原則として認められません。判例(最判昭和36.4.14系統の考え方)では、すでに時効消滅した後に譲り受けた債権を自働債権として相殺することは、508条の保護する『当事者の相殺期待』が存在しないため否定される傾向です。実務のポイント:508条が守るのは『相殺適状の時点で当事者が抱いていた清算の安心感』です。後から死んだ債権を買ってきても、その安心感は生まれない。この区別を知らずに不良債権を買い集めて相殺に使おうとすると、丸ごと空振りになる
Q3相殺すると、利息はいつまで計算されるんですか?
相殺の効力は、両債権が相殺適状になった時にさかのぼって発生します(民法506条2項)。つまり相殺適状の時点で両債権が対当額で消滅したものとして扱われ、そこから先の利息や遅延損害金は発生しません。実務のポイント:相殺の意思表示を出すのが遅れても、効力は相殺適状の時点まで遡る。だから『早く言わなかったから利息が膨らんだ』とはならない。ただし相殺適状の到来時点を証拠で示せることが前提なので、その時点の記録は必ず残す
間違えやすい点 AI による整理
- 「時効になった債権はもう何の役にも立たない」と思い込んでいる人は、508条の存在自体を知らない。これは裏返しというより、知っていれば打てた手を打てずに終わる典型だ。時効消滅した債権でも、相殺適状が先行していれば相殺の自働債権として使える。知らない人は満額支払い、知っている人は差し引いて払う
- 相殺できることは知っていても、「相殺適状が時効完成より前に来ていなければならない」という時間的な順序の深刻さを理解していない人が多い。相手の債権が弁済期になる前に自分の債権が時効消滅していたら、508条は使えない。順序が逆なら盾は機能しない。この一点で結論が真逆になる
- 「相手が時効を援用したら、もう相殺は無理」と考えるのは、問いの立て方が誤っている。相手の援用は相手の債務を消すだけで、あなたの相殺権の成否は別問題。508条が問うのは『あなたの債権が消える前に相殺適状があったか』であって、相手がいつ援用したかではない
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 規律の役割 | 508条:時効消滅した債権でも相殺を認める例外 | 505条:相殺の原則的要件(相殺適状)を定める 509条:悪意の不法行為等の債権を受働債権とする相殺を禁止 |
| 適用の前提 | 相殺適状が自働債権の時効完成より前に到来していること | 双方が同種の債権を持ち、ともに弁済期にあること 受働債権が悪意の不法行為・生命身体侵害に基づくこと |
| 効果 | 時効で消えた債権でも自働債権として相殺に使える | 意思表示により対当額で双方の債権が消滅する 加害者側からの相殺は許されない |
他国ではどう定めているか 4 か国
台湾も『時効未完成前に相殺適状にあった債権は時効消滅後も相殺できる』と定め、日本508条とほぼ同趣旨。継受関係にある。
韓国も時効完成前に相殺適状にあった債権による相殺を認める。日本民法の継受規定で文言・趣旨が極めて近い。
ドイツは『相殺できた時点でまだ時効にかかっていなければ、時効は相殺を妨げない』と定める。本条の母法的発想にあたる。
米国コモンローでは、防御的な recoupment は時効消滅後も主張できる場合があるが、攻撃的な setoff は時効に服する扱いが多く、州により分かれる。
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- あなたが個人事業主で、取引先 A に商品代金80万円の売掛金がある。同じ A から外注費60万円を請求された。あなたの売掛金は気付かぬうちに時効期間(5年)を超えていた。だが両債権が弁済期を迎えて差し引ける状態になったのが時効完成より前なら、508条で60万円を帳消しにできる。請求書を受け取って慌てて全額払う前に、相殺適状がいつ成立したかを確認するかどうかで、手元に残る現金が60万円違う
- もし、相手の弁護士から「あなたの債権はとっくに時効です、援用します」という内容証明が届いたら、どうする? 時効の援用(民法145条)で相手の債務が消えても、あなたの側はまだ反撃できる。相殺適状が先に来ていれば、援用されてもなお相殺の意思表示で対抗できる。諦めて口座から振り込むのは、その確認を終えてからでも遅くない
- あなたが請求する側に回ったケース。長年放置していた貸金を回収しようと相手に督促したら、相手が「こちらにも昔の立替金がある、相殺する」と言い出した。相手の立替金がすでに時効消滅していても、相殺適状が先行していれば相手の相殺は有効になりうる。あなたが回収できると思った金額が、相手の死んだはずの債権で削られる
- あと数週間で自分の債権が時効完成という局面。相手にも自分への債権がある。今のうちに相殺の意思表示を出しておくか、相殺適状の到来時点を証拠化しておかないと、完成後は508条の「消滅以前に相殺適状」という要件の立証で苦しむ。時間が要件成立の証拠を風化させる
取るべき行動
被害を受けた側:1. 相手から請求が来たら、自分が相手に対して持つ債権がないか棚卸しする。古くて時効と思える債権も除外しない2. 双方の債権が弁済期を迎えて差し引ける状態(相殺適状)になった時点を特定し、それが自分の債権の時効完成より前かを確認3. 前であれば、相手に支払う前に相殺の意思表示(内容証明郵便が確実、民法506条)を出す4. 相殺適状の到来時点を示す契約書、請求書、振込記録を証拠として保全。立証できなければ508条は機能しない
訴えられた側:1. 相手が時効消滅した債権で相殺してきたら、その債権の相殺適状が本当に時効完成より前に成立していたかを精査する2. 相殺適状の前に自働債権がすでに時効消滅していたなら508条は適用されず、相殺は無効と反論できる3. 相手の債権が他人から時効消滅後に譲り受けたものなら、判例上508条による相殺は認められない可能性が高い4. 相殺の遡及効(民法506条2項)で利息計算が変わるため、差引額を再計算して過大な相殺を防ぐ
時効(請求できる期限):508条自体に固有の期限はないが、自働債権の相殺適状が、その債権の消滅時効完成(債権は原則として権利行使できると知った時から5年、または権利行使できる時から10年、民法166条)より前に到来していることが必須要件。相殺の意思表示は相手への到達で効力を生じる(最新の改正状況をご確認ください)
学説
通説:508条の相殺は、書面性は要しないものの、自働債権の相殺適状が時効完成より前に到来していることを要件とする。公序良俗違反や、時効消滅後に取得した債権による相殺の場合には、保護すべき清算期待が存在せず相殺は認められないと解されている。
改正沿革 AI による整理
- 平成16年(2004年) 民法現代語化に伴う改正。旧仮名遣いの文言を現代語に改めたが、『時効消滅前に相殺適状にあった債権による相殺を認める』という規律の実質は維持された
改正の年表
- 1.平成16年(2004年) 改正:民法現代語化に伴う改正。旧仮名遣いの文言を現代語に改めたが、『時効消滅以前に相殺適状にあった債権による相殺を認める』という規律の実質は維持された。
- 2.平成29年(2017年) 改正:債権法改正(2020年4月施行)。消滅時効の起算点・期間(166条)など相殺の前提が見直されたが、508条の相殺許容の枠組み自体は維持された。
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