特許法 第79条の2(特許権の移転の登録前の実施による通常実施権)
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- 第七十四条第一項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録の際現にその特許権、その特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者であつて、その特許権の移転の登録前に、特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当すること(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。
- 2.当該特許権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。
この条文の基本情報
特許権の移転の登録前の実施による通常実施権とは何ですか?
定義特許権の移転の登録前の実施による通常実施権とは、特許法第79条の2に定められた規定で、「第七十四条第一項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録の際現にその特許権、その特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権…」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 特許法第79条の2(特許権の移転の登録前の実施による通常実施権)は、日本の特許法に含まれる条文です。
- 特許法第79条の2の条文原文は「第七十四条第一項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録の際現にその特許権、その特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権…」で始まります。
- 特許法第79条の2は第一節に置かれています。
- 特許法の公布日は昭和34年4月13日です。
- 特許法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 特許法第79条の2の前の条は特許法第79条です。
- 特許法第79条の2の次の条は特許法第80条です。
- 特許法第79条の2には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第79条の2 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121 - 本サイト収録
特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第79条の2(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/334AC0000000121/79_2
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点特許法79条の2は、冒認等で特許権が真の権利者へ移転された際、移転登録前から善意で実施していた者に通常実施権(中用権)を認める。事業は継続できるが相当の対価の支払いを要する。
Q · 特許を他人に取り上げられたら、使っていた製品はもう作れなくなるの?
善意なら中用権で使い続けられるが対価は要る
特許法79条の2により、冒認出願または共同出願違反を理由に特許権が真の権利者へ移転された場合でも、移転登録の前から善意で当該発明を実施する事業をしていた、またはその準備をしていた者は、その実施・準備の範囲内で通常実施権(中用権)を当然に取得します。したがって生産ラインを止める必要はありません。ただし2項により、新たな特許権者から相当の対価を請求されるため無償ではありません。争点は『使えるか否か』ではなく『対価をいくらにするか』へ移ります。
解説
あなたの会社が買い取った特許、あるいは長年ライセンスを受けて使ってきた特許。それが突然、見ず知らずの他人のものになる。そんなことが特許の世界では起こる。元の出願人が、本当は他人の発明を勝手に出願していた(冒認)、あるいは共同発明者を外して単独で出願していた(共同出願違反)場合、本当の権利者は特許権そのものの移転を請求できる(74条)。問題はその後だ。あなたは何も知らずに、その特許で工場を回し、製品を作り、設備に何億円も投じてきた。移転が登録された瞬間、あなたは無権利者として差止めを食らうのか。79条の2はそこに救命胴衣を投げる。移転登録の前から善意で事業をしていた、または事業の準備をしていたなら、あなたはその発明を使い続ける通常実施権(他人の特許を一定範囲で使える法律上の権利)を当然に得る。条件は、冒認や共同出願違反の事実を知らなかったこと。代わりに、新しい真の権利者には相当の対価(適正なロイヤリティ)を払う。工場は止めない、ただし使用料は払う、それがこの条文の取引である。
法的な位置づけ
特許法79条の2は、74条による特許権の移転登録前から、冒認または共同出願違反の事実を知らずに国内で当該発明の実施である事業をし、またはその準備をしていた者に、その実施・準備の範囲内で通常実施権を認める中用権の規定である。当該通常実施権者は、新たな特許権者へ相当の対価を支払う義務を負う。
手順・フロー
AI による整理。効力は条文原文が基準です
手順
- 1.事業(または準備)の開始日を客観証拠で固める 移転請求や移転登録の通知が来たら、まず自社が当該発明の実施または準備を始めた日を証明できる資料を時系列で整理する。契約書、発注書、設備投資の領収書、試作記録、議事録が該当する。紛争発生後に集めると後付けと疑われるため、可能な限り早く固める
- 2.善意(不知)を裏付ける材料を整理する 冒認・共同出願違反の事実を知らなかったことを示す資料を集める。契約締結時に出願経緯を確認したメールや議事録が強力な裏付けになる。逆に出自が揉めているとの噂を聞いていた等の事情があれば早期に専門家へ相談する
- 3.新権利者へ中用権の存在を通知する 移転後の新たな特許権者に対し、79条の2に基づき通常実施権を有する旨を書面で通知する。差止めの対象ではなく対価交渉の相手であることを明確にし、以後の窓口を固定する
- 4.相当の対価を交渉し、折り合わなければ訴訟へ 実施規模・市場性・通常のライセンス料相場を踏まえ、相当の対価の額を交渉する。差止めが使えない相手であることを前提に対等に臨む。合意できなければ最終的に訴訟で裁判所に相当の対価を認定してもらう
よくある質問 AI による整理
Q1中用権とは何ですか?
特許権の移転や無効審判等の事由が生じた際、その前から善意で実施していた者に事後的に認められる法定の通常実施権です。特許法79条の2は冒認移転の場合の中用権を定めます。
Q2特許法79条の2とはどんな条文ですか?
冒認・共同出願違反で特許権が真の権利者へ移転されたとき、移転登録前から善意で実施・準備していた者に通常実施権を認める規定です。事業継続の代わりに相当の対価を支払います。
Q3先使用権と中用権の違いは何ですか?
先使用権(79条)は他人の出願前からの実施を無償で保護します。中用権(79条の2)は移転登録前からの善意実施を保護しますが、相当の対価の支払いが必要な点が異なります。
Q4冒認出願された特許を取り戻すにはどうすればいいですか?
特許法74条により、真の権利者は冒認出願者に対し特許権の移転を請求できます。移転登録により特許権は真の権利者に帰属しますが、善意の実施者には79条の2の中用権が生じます。
Q5特許権の移転請求とは何ですか?
冒認や共同出願違反があった場合に、真の権利者が特許権そのものの自己への移転を請求できる制度です(74条)。無効審判で潰すのではなく権利を取り戻せます。
Q6中用権はいつの時点で判断されますか?
特許権の移転登録の時点が基準です。その時点より前に実施・準備を始め、かつ善意であったかで成否が決まります。開始日の客観的証拠が決定的になります。
Q7共同出願違反とは何ですか?
共同発明であるのに一部の発明者を外して単独または一部の者だけで出願する違反です(38条違反)。この場合も74条の移転請求と79条の2の中用権の対象になります。
Q8M&A で買収した会社の特許が冒認だった場合どうなりますか?
買収後に真の発明者から移転請求される可能性があります。買収した事業ラインが移転登録前から善意で稼働していれば、79条の2の中用権で継続実施が守られます。
この条文についての質問 AI による整理
Q1特許を取り上げられたら、もうその製品は作れないんですよね?
いいえ。移転登録の前から善意で事業をしていたなら、79条の2により通常実施権が法律上当然に発生し、製造を続けられます。ただし無償ではなく、新しい権利者に相当の対価を払う必要があります(2項)。実務のポイント:弁理士は移転請求案件を受けると真っ先に「実施開始日」と「善意の証拠」を確認します。この2点が揃っていれば、廃業の危機は対価交渉の問題へダウングレードできる。逆に証拠が曖昧だと、せっかくの中用権を主張しきれない
Q2「善意」って、どこまで知らなければセーフなんですか?
冒認(他人の発明の無断出願)または共同出願違反の事実を知らなかったこと、が要件です。単に「契約は正規だと思っていた」では足りず、紛争の噂を聞いていた等の事情があると悪意と評価されるリスクがあります。実務のポイント:実務では「善意」の立証責任の所在が争点になりやすい。契約時に出願経緯を確認した記録(メール、議事録)を残しておくと、後で「知らなかった」の強力な裏付けになる。これは契約締結時にしか作れない証拠です
Q3下請けで作っていただけでも、中用権は認められますか?
「事業」だけでなく「事業の準備」も保護対象なので、製造に向けた具体的投資(金型製作、試作、設備発注)まで進んでいれば認められる余地があります。ただし単なる構想や検討段階では足りません。実務のポイント:「準備」がどこまで進んでいたかで権利範囲が決まるため、投資の日付入り記録が決定的。先使用権(79条)の判例で蓄積された「準備」の判断基準が、この79条の2でも参考にされます
Q4対価の額って、誰がどうやって決めるんですか?
まずは当事者の交渉です。折り合わなければ、最終的には訴訟で裁判所が「相当の対価」を認定します。通常のライセンス料相場、実施規模、市場性などが考慮されます。実務のポイント:中用権が立っている時点で、相手は差止めという最強カードを失っています。だから対価交渉でこちらが過度に弱腰になる必要はない。「使えるか否か」はもう決着済みで、争点は「いくらか」だけ、という力関係を忘れないことです
間違えやすい点 AI による整理
- 「特許が他人に移ったら、それを使っていた自分はもう使えない」と思い込みがちだが、79条の2は逆を定める。善意でさえあれば、移転後も通常実施権が法律上当然に発生する。差止めで一夜にして廃業、という最悪のシナリオは回避できる
- 「移転後も無償で使い続けられる」と早合点する人がいるが、ここが落とし穴の深さだ。確かに使い続けられる。だが2項により、新しい真の権利者から「相当の対価」を請求される。タダではない。対価の額で揉めれば、結局は交渉か訴訟になる。事業は守れても、コストはゼロではない
- 「自分は正規の手続でライセンスを買ったのだから、善意は当然認められる」という問いの立て方そのものが危うい。法律が見るのは「契約の正規性」ではなく「冒認・共同出願違反を知っていたか」。業界の噂で「あの特許は出自が揉めている」と聞いていただけでも悪意と評価されるリスクがある。守るべきは契約書ではなく、知らなかったことの証拠だ
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 発生原因 | 79条の2:冒認・共同出願違反による特許権の移転 | 79条:他人の特許出願前からの実施(先使用権) 80条:無効審判請求の登録前からの実施(中用権) |
| 基準時点 | 特許権の移転登録の時点 | 他人の特許出願の際 無効審判請求の登録の際 |
| 主観要件 | 冒認・共同出願違反を知らなかったこと(善意) | 自ら発明し、または知得した者による独自実施 無効理由を知らなかったこと(善意) |
| 対価の要否 | 相当の対価の支払いが必要(2項) | 無償 相当の対価の支払いが必要 |
他国ではどう定めているか 4 か国
台湾は冒認移転に伴う中用権を直接規定せず、法定実施権としては先使用權が最も近い。真正発明者の救済は第35條による。
韓国は特許権の移転登録前の実施による通常実施権を明文化しており、日本79条の2に最も近い対応規定である。
ドイツは §8で widerrechtliche Entnahme(冒認)に対する移転請求、§12で Vorbenutzungsrecht(先使用権)を定める。
米国は prior commercial use defense(先行商業使用の抗弁)を規定。derivation(冒認相当)は §291・§135が扱う。
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 5年前にA社から特許のライセンスを受け、生産ラインを2億円かけて構築した。ところが先日、B社が「この特許は当社の発明を冒認したものだ」として特許権の移転を請求してきた。移転が認められれば、あなたが向き合う相手はB社に変わる。だが79条の2が立てば、ラインは止めずに済む。次の交渉は「使えるか」ではなく「対価をいくらにするか」になる
- もし、特許を譲り受けた相手が実は冒認出願者で、本当の発明者が後から現れて移転を請求してきたら? あなたが移転登録の前に製造を始めていれば中用権が立つ。ただし「冒認を知らなかった」ことを示せるかが分水嶺になる
- あなたが本当の発明者で、奪われた特許をやっと74条で取り戻した。ところが、その特許を勝手に使っていた会社が「79条の2で使い続ける」と主張してくる。腹は立つが、相手が善意なら止められない。あなたに残るのは差止めではなく、相当の対価を取る権利だ
- 移転登録の通知が届いた。あなたが事業を始めたのが登録の前か後か、その一線で中用権の有無が決まる。証拠を今すぐ固めること。
- 下請けとして親会社の特許製品を製造してきたが、その特許が共同出願違反で他社へ移転された。あなたの「事業の準備」段階の投資(金型、試作品)も保護対象になりうる。準備をどこまで進めていたかの記録が、認められる権利の範囲を決める
取るべき行動
被害を受けた側:1. 移転請求や移転登録の通知が来たら、まず「自分が事業(または準備)を始めた日」を客観証拠で固める:契約書、発注書、設備投資の領収書、試作の記録、議事録2. 次に「冒認・共同出願違反を知らなかった」ことを示す材料を整理。逆に揉めている噂を聞いていた等の事情があれば早めに弁理士・弁護士へ相談3. 中用権が立つ前提で、新権利者に「79条の2に基づき通常実施権を有する」と通知し、対価交渉に入る4. 対価額で折り合わなければ、最終的には訴訟で「相当の対価」を裁判所に決めてもらう
訴えられた側:1. あなたが74条で特許を取り戻した側なら、相手の中用権の成立要件を精査する:本当に移転登録「前」から実施・準備していたか、本当に「善意」だったか2. 相手が悪意(冒認・違反を知っていた)だと示せれば中用権は成立せず差止めできる。噂・取引履歴・メール等の証拠を洗う3. 中用権が認められる場合は、感情で差止めに固執せず「相当の対価」の最大化へ戦略を切り替える4. 対価額は実施規模・市場性で変わるため、専門家による算定を準備する
時効(請求できる期限):中用権の成否は「移転登録の時点」を基準に判断される。実施・準備がその前か後かが決定的。対価請求権そのものに特定の時効規定はないが、一般の消滅時効(民法166条、債権は権利行使できると知った時から5年または権利行使できる時から10年)が適用される(最新の改正状況をご確認ください)
学説
通説:79条の2の中用権は、74条の移転請求により特許権を失う善意の実施者を保護する法定通常実施権であり、先使用権(79条)・無効審判請求登録前の中用権(80条)と同系列の制度と解される。要件は、冒認または共同出願違反を知らなかったこと(善意)と、移転登録前における実施または準備である。
改正沿革 AI による整理
- 平成23年(2011年)新設 特許法の一部改正(平成23年法律第63号、2012年4月1日施行)により新設。74条の特許権移転請求制度(冒認・共同出願違反への救済)の導入に伴い、移転前から善意で実施していた者を保護する中用権として設けられた
改正の年表
- 1.平成23年(2011年) 新設:特許法の一部改正(平成23年法律第63号、2012年4月1日施行)により新設。74条の特許権移転請求制度(冒認・共同出願違反への救済)の導入に伴い、移転前から善意で実施していた者を保護する中用権として設けられた。
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