不動産登記法 第85条(不動産工事の先取特権の保存の登記)
クイックジャンプ
不動産工事の先取特権の保存の登記においては、第八十三条第一項第一号の債権額として工事費用の予算額を登記事項とする。
この条文の基本情報
不動産工事の先取特権の保存の登記とは何ですか?
定義不動産工事の先取特権の保存の登記とは、不動産登記法第85条に定められた規定で、「不動産工事の先取特権の保存の登記においては、第八十三条第一項第一号の債権額として工事費用の予算額を登記事項とする。」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 不動産登記法第85条(不動産工事の先取特権の保存の登記)は、日本の不動産登記法に含まれる条文です。
- 不動産登記法第85条の条文原文は「不動産工事の先取特権の保存の登記においては、第八十三条第一項第一号の債権額として工事費用の予算額を登記事項とする。」で始まります。
- 不動産登記法第85条は第三節 権利に関する登記に置かれています。
- 不動産登記法の公布日は平成16年6月18日です。
- 不動産登記法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 不動産登記法第85条の前の条は不動産登記法第84条です。
- 不動産登記法第85条の次の条は不動産登記法第86条です。
- 不動産登記法第85条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第85条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123 - 本サイト収録
不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第85条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/416AC0000000123/85
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点不動産登記法85条は、不動産工事の先取特権の保存登記において、債権額として工事費用の予算額を登記事項とすると定める。着工前に登記しなければ効力は保存されない。
Q · 工事の先取特権を登記するとき、債権額の欄には何を書くの?
工事費用の予算額を書く。着工前でなければ効力は保存されない
不動産登記法85条により、不動産工事の先取特権の保存登記では、確定した債権額ではなく工事費用の予算額を債権額として登記します。請負代金債権は着工前にはまだ発生していないためです。この登記は工事に着手する前に行わなければ効力が保存されず(民法338条1項)、予算額を超える部分に先取特権は及びません。登記されれば抵当権にも優先しますが(民法339条)、配当時の優先枠は工事による増価額に限られます(民法327条2項)。
解説
注文住宅の代金が焦げ付いたとき、工務店に残された手は驚くほど少ない。建物は施主名義、土地には銀行の抵当権。ところが民法338条と本条を組み合わせると、その順位が引っくり返る。不動産工事の先取特権は、着工前に工事費用の予算額を登記しておけば、先に登記された抵当権にも優先して行使できる(民法339条)。本条が定めるのは、その登記に書き込む「債権額」の正体だ。通常の担保権登記なら確定した債権額を書くが、着工前の時点であなたの請負代金債権はまだ発生していない。だから予算額をもって債権額とする。ここに落とし穴がある。実際の工事費用が予算額を超えたとき、超過分に先取特権は及ばない(民法338条1項後段)。見積書に書いた数字一つが、あなたが優先弁済を受けられる上限を、その場で永久に固定する。
法的な位置づけ
不動産登記法85条は、不動産工事の先取特権の保存の登記における登記事項の特則である。担保権の登記では確定した債権額を登記するのが原則であるが(同法83条1項1号)、本条は工事着手前に登記を要する不動産工事の先取特権について、工事費用の予算額をもって債権額とする旨を定める。
手順・フロー
AI による整理。効力は条文原文が基準です
手順
- 1.請負契約の段階で登記協力条項を入れる 着工日を決める前に、請負契約書へ「所有者は不動産工事の先取特権保存登記に協力する」旨の条項を入れる。共同申請が必要なため、この一文がないと着工前でも登記できない
- 2.工事費用の予算額を確定して疎明資料を整える 見積書と工事内訳書をもとに予算額を確定する。設計変更が見込まれる工事では予備費を織り込む。超過分に先取特権は及ばないため(民法338条1項後段)、この数字が優先弁済の天井になる
- 3.着工前に先取特権保存登記を申請する 所有者と共同で、管轄法務局へ不動産工事の先取特権保存登記を申請する。債権額欄には本条により工事費用の予算額を記載する。地面に鍬を入れた瞬間にこの手続は使えなくなる
- 4.建物新築の場合は所有者を表示する登記もあわせて処理する 建物新築工事では、まだ存在しない建物に対する登記となるため、不動産登記法86条の手続によることになる。表示すべき事項と職権処理の範囲を法務局と事前に確認する
- 5.建築完了後に遅滞なく所定の登記を申請する 建物が完成したら、不動産登記法87条により建物の表題登記等の申請を遅滞なく行う。ここで手続が途切れると、せっかく保存した先取特権を実行段階で使えなくなる
よくある質問 AI による整理
Q1不動産工事の先取特権とは何ですか?
工事の請負人が、その工事で価値が増えた不動産から代金を優先的に回収できる法定担保です。民法327条が定め、着工前の登記で効力が保存されます。
Q2先取特権保存登記はいつまでにできますか?
申請期限の日付はありません。工事に着手する前という一点だけが条件です(民法338条1項)。着工後は何日以内でも登記できなくなります。
Q3工事の先取特権の登記は誰が申請しますか?
請負人と所有者(施主)の共同申請が原則です。施主の協力が得られないと登記できないため、請負契約の段階で協力条項を入れておくのが実務です。
Q4先取特権保存登記をすると施主にどんな影響がありますか?
登記簿に抵当権より優先する担保が載るため、住宅ローンの融資審査で不利に働くことがあります。融資契約に設定禁止条項がある場合は事前確認が必要です。
Q5着工してしまった後でも工事代金を守る方法はありますか?
本条の登記はできませんが、請負代金債権を被保全債権とする仮差押え、商事留置権、目的物の引渡拒絶など別ルートでの保全を検討します。
Q6先取特権保存登記の登記事項には何を書きますか?
不動産登記法83条1項各号の担保権共通事項を書きますが、債権額だけは本条により工事費用の予算額に置き換わります。
Q7施主が登記に協力してくれない場合はどうなりますか?
共同申請ができず、事実上この担保は使えません。着工前という時間制限もあるため、契約書に登記協力義務を明記しておくことが唯一の対策です。
Q8リフォーム工事でも先取特権保存登記はできますか?
既存建物の工事でも可能です。ただし優先弁済の枠は工事による増価額に限られるため(民法327条2項)、内装中心の工事では回収額が小さくなりがちです。
この条文についての質問 AI による整理
Q1先取特権って法律で当然に発生するんですよね? わざわざ登記が要るんですか?
発生と効力の保存は別問題です。不動産工事の先取特権は、工事に着手する前に費用の予算額を登記しなければ効力を保存できず(民法338条1項)、登記して初めて抵当権に優先します(民法339条)。本条はその登記で書くべき債権額の中身を定めています。実務のポイント:この登記の実例が極端に少ない最大の理由は、施主との共同申請が必要だからです。だから契約書の段階で協力義務を明記した業者だけが、実際にこの武器を抜ける
Q2工事費が予算額を上回ってしまったら、後から登記を増額できますか?
当初の登記を後から増額しても、超過部分に先取特権は及びません(民法338条1項後段)。追加工事について保存したいなら、その追加工事に着手する前に改めて登記する必要があります。実務のポイント:設計変更が読める工事では、当初から変更予備費を上乗せした予算額で登記しておくのが定石です。登録免許税は債権金額を基準にした比較的小さな率で計算されるため、回収不能リスクと比べれば保険料として安い(税率は最新の改正状況をご確認ください)
間違えやすい点 AI による整理
- 先取特権が抵当権に優先すること自体は知られている。だがその優先が「工事による増価額の限度」でしか働かない点まで押さえている実務家は多くない(民法327条2項)。予算額2,000万円を登記しても、建物の価値が800万円しか上がっていなければ、優先枠は800万円で止まる。登記の数字と回収額は別物である
- 「いつまでに登記すればいいのか」という問いの立て方そのものが誤っている。本条の登記に日付の期限はない。着工という事実で扉が閉まる(民法338条1項)。カレンダーではなく工程表が締切であり、現場が動き出した後は、どれだけ急いでも法律上もう間に合わない
- 予算額は大きく書いておけば安心だと思われがちだが、登記の登録免許税は債権金額を基準に算出される。過大な予算額は税負担を増やすだけで、現実に発生した請負代金を超えて回収できるわけではない。予算額は天井であって、床ではない(最新の税率は登録免許税法の改正状況をご確認ください)
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 債権額として登記する内容 | 不動産登記法85条:工事費用の予算額(未発生の債権を予算で代替) | 不動産登記法83条:確定した債権額が原則 不動産登記法86条:建物新築の場合の登記事項の特則 |
| 登記できるタイミング | 工事に着手する前のみ(民法338条1項) | 担保権の成立後、時期の制限なし 着工前、対象建物が未完成の段階 |
| 手続の担い手 | 請負人と所有者の共同申請 | 担保権者と設定者の共同申請 共同申請+登記官の職権処理が絡む |
| その後に必要な手続 | 工事完了後の権利実行、増価額の立証 | 変更・抹消登記 不動産登記法87条:建築完了後の登記申請 |
他国ではどう定めているか 5 か国
台湾は同じ工事人保護を先取特権ではなく法定抵当権として構成し、承攬人に抵当権設定登記の請求権を与える。着工前という時期制限はなく、工事完成前でも登記請求できる点で日本より使いやすい
韓国も抵当権設定請求権の形式を採る。請負人は目的不動産について抵当権の設定を請求できるにとどまり、日本のように既存抵当権に優先する順位逆転は生じない
中国は登記ではなく優先受償権として構成し、発注者が代金を支払わない場合に請負人が工事目的物の折価・競売代金から優先弁済を受けられる。登記手続を介さない点が日本と大きく異なる
ドイツは建築請負人に保全抵当権(Sicherungshypothek)の設定請求権を与える。順位は登記の先後によるため、既存抵当権を追い越す効果は原則としてなく、日本の民法339条のような順位逆転は認められない
米国は州法ごとにメカニックス・リーンを定め、工事完了後の一定期間内に lien claim を記録する方式が一般的。着工前ではなく完了後に手続が走る点で、日本と時間軸が逆になっている
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 来週から基礎工事に入る3,000万円の注文住宅。施主の資金繰りが怪しいと気付いたとき、あなたに残された時間は何日か。着工した瞬間、不動産工事の先取特権を保存する道は永久に閉じる(民法338条1項)。予算額を登記できるのは、地面に鍬を入れる前だけだ
- 施主の側に立つこともある。工務店から先取特権保存登記への協力を求められた。共同申請なので、あなたの実印がなければ登記は通らない。断る自由はあるが、断った瞬間に着工を止める材料を相手に渡すことになる
- 予算額2,000万円でリフォーム工事の先取特権を保存した。工事は完了、代金は未払い、物件は競売へ。ところが配当の段階で、鑑定人が算定した「工事による増価額」は800万円だった。優先弁済を受けられるのはその800万円まで(民法327条2項)。登記した数字がそのまま懐に入るわけではない
取るべき行動
被害を受けた側:1. 未着工なら最優先で動く。施主と共同申請で不動産工事の先取特権保存登記を行い、本条により工事費用の予算額を債権額として登記する2. 予算額には設計変更の予備費を織り込む。超過分に先取特権は及ばない(民法338条1項後段) 3. 建物新築の場合は不動産登記法86条の手続によることになり、建築完了後の登記も忘れない(同87条) 4. 既に着工済みなら本条の道は閉じている。請負代金債権の保全として仮差押え、建物の商事留置権や工事目的物の引渡拒絶といった別ルートに切り替える
訴えられた側:1. 施主として協力を求められたら、登記される予算額が請負契約書の金額と整合しているかを必ず突き合わせる。過大な数字がそのまま登記簿に載れば、以後の融資審査で不利に働く2. 住宅ローンを予定しているなら、融資契約の禁止条項と衝突しないか金融機関に事前確認する3. 工事が完了せず中断した場合、優先弁済の範囲は現実の増価額に限られる(民法327条2項)。出来高と増価の資料を自分でも保全しておく
時効(請求できる期限):登記の可否は日付ではなく工事の着手で決まる。工事を始める前に登記しなければ先取特権の効力は保存されない(民法338条1項)。建物を新築した場合、建築完了後は遅滞なく所定の登記を申請する必要がある(不動産登記法87条)。請負代金債権そのものは、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で時効消滅する(民法166条1項)
学説
通説:本条の予算額は先取特権の被担保債権額の上限を画するにとどまり、現実の回収額を保証するものではない。予算額を超えた部分に先取特権は及ばず(民法338条1項後段)、配当段階では工事による増価額が別個の上限として働く(民法327条2項)という二重の制約が通説的理解である
実務上の理解:本条の登記が実務でほとんど利用されない主因は、着工前という時期的制約と、所有者との共同申請構造にあると説明される。制度としての強力さと利用実績の乖離が、立法論的な検討課題として指摘されている
改正沿革 AI による整理
改正の年表
- 1.平成16年(2004年) 改正:不動産登記法の全部改正により現行法が制定され、オンライン申請と登記識別情報制度が導入された。不動産工事の先取特権の保存登記における債権額の特則も、この全部改正後の条文体系のもとで本条に整理されている
- 不動産登記法 第83条担保権登記の登記事項、本条が修正する原則
- 不動産登記法 第86条建物新築の場合の登記事項と職権処理の特則
- 不動産登記法 第87条建築完了後に必要となる登記の申請
- 民法 第339条登記した工事の先取特権が抵当権に優先
- 民法 第325条不動産の先取特権の三類型の位置づけ
ログインすると、この条文にメモを残して他の利用者と共有できます。
ログインして共同ノートを始める