要点破産法 244 条の 10 は、信託財産の破産で受託者等や会計監査人が相手方の場合、否認に必要な悪意を推定する規定。立証責任が内部者側に転換される。
Q · 信託が破産したら、受託者や会計監査人がした取引は簡単に否認されるの?
内部者は悪意が推定され、否認されやすくなります
信託財産について破産手続開始の決定があると、受託者等が信託財産に関してした行為は破産者の行為とみなされます(244 条の 10 第 1 項)。さらに相手方や債権者が受託者等・会計監査人であるときは、否認の主観的要件である悪意(隠匿の意図や支払不能の認識)が法律上推定され、立証責任が内部者側に転換されます。内部者が自ら善意を証明できなければ否認を免れません。
限定責任信託の受託者として、資金繰りが苦しくなった信託財産を関係先に売却した。あるいは会計監査人として、その信託から報酬や担保の弁済を受け取っていた。後に信託財産が破産すると、破産管財人は否認権(債権者を害する取引を巻き戻す権利)を抜いてくる。本条が置く仕掛けは決定的だ。通常、否認するには「相手方が悪意だった(隠匿の意図や支払不能を知っていた)」ことを管財人が立証しなければならない。ところが相手方が受託者等または会計監査人であるときは、その悪意が法律上推定される。つまり立証責任が逆転し、内部者の側が「自分は隠匿の意図を知らなかった」「支払不能を知らなかった」と証明できなければ負ける。さらに1項は、受託者等が信託財産についてした行為を「破産者がした行為とみなす」と定め、内部者の取引を丸ごと否認の射程に引き込む。信託の内側にいた者は、外部の取引相手より圧倒的に不利な土俵で否認の戦いに臨むことになる。
破産法 244 条の 10 は、信託財産の破産における否認権の特則である。受託者等又は会計監査人が相手方・債権者である場合に、隠匿等の意図や支払不能の認識といった主観的要件(悪意)を法律上推定し、あわせて受託者等が信託財産に関してした行為を破産者の行為とみなす旨を定める規定である。
破産管財人が、破産手続開始前に債務者がした債権者を害する行為の効力を否定し、流出した財産を破産財団に取り戻す権利です。詐害行為否認と偏頗行為否認があります。
限定責任信託などで信託財産だけが責任財産となる場合に、その信託財産のみが独立して破産手続の対象になる状態です。破産法 244 条の 2 以下が特則を置いています。
受託者が信託財産の限度でのみ債務を負う信託です。固有財産に責任が及ばないため信託財産が単独で破産しうる構造となり、本条の適用場面になります。
覆せます。本条の推定は反証可能な推定で、取引当時に支払不能を知らず隠匿の意図もなかったことを内部者側が証明できれば否認を免れます。
破産手続開始の日から 2 年、または行為の日から 20 年を経過すると行使できません(破産法 176 条)。起算点は破産手続開始の決定です。
破産手続で破産財団の管理・換価・配当を担う者で、裁判所が選任します。否認権の行使主体でもあり、通常は弁護士が選ばれます。
されうります。破産法 161 条は相当対価の処分でも隠匿等の意図と相手方の悪意があれば否認します。内部者相手なら悪意が推定されます。
詐害行為否認(160 条系)は財産を減少させる行為、偏頗行為否認(162 条)は特定債権者だけを優遇する弁済・担保供与が対象です。
推定はされますが、覆せます。本条の推定は反証可能な推定なので、受託者の側で取引当時に支払不能を知らず隠匿の意図もなかったことを証明できれば否認を免れます(161 条、162 条)。決定的なのは立証責任があなた側にある点です。業界裏話ヒント:実務では、取引時の信託財産の財務状況を示す資料が残っているかで勝負がほぼ決まる。弁護士は「知らなかった」という言葉より、当時の客観的な財務データの有無を真っ先に聞く。記録がなければ心証で押し切られる。
多くの家族信託(民事信託)は限定責任信託ではなく、受託者が固有財産でも責任を負う構造なので、信託財産だけが独立して破産する場面は限定的です。本条が実際に効いてくるのは、資産流動化や事業型の限定責任信託など、信託財産だけが責任財産となるスキームです(破産法 244 条の2 以下)。業界裏話ヒント:「信託にすれば財産が守られる」という宣伝は、限定責任信託と通常の信託を混同させがち。受託者が信託財産で事業や借入を行う設計なら、否認リスクは現実のものになる。
会計監査人は信託財産の財務状況を職務上把握できる立場にあるため、本条 2 項から 4 項は監査人を受託者等と並べて推定の対象にしています。中立の専門家であっても、知り得た地位が不利に働く構造です(161 条 1 項、162 条 1 項)。業界裏話ヒント:監査人が監査先から報酬や担保を受け取るタイミングは要注意。財務悪化局面での弁済受領は、後から偏頗行為否認で蒸し返されやすい。受領の合理性を示す記録をその都度残しておくのが、実務的な自衛策になる。
| dimension | thisArticle | alternatives |
|---|---|---|
| 否認の主観要件 | 244 条の 10:相手方が受託者等・会計監査人なら悪意を推定(立証責任転換) | — |
| 対象行為 | 受託者等が信託財産に関してした行為(破産者の行為とみなす) | — |
| 立証負担の所在 | 内部者側が善意を反証しなければ負ける | — |
| 覆せる手段 | 支払可能・善意・経済合理性の反証、行為時期の非該当 | — |
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