厚生年金保険法 第76条
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- 遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であつた者を故意に死亡させた者には、支給しない。被保険者又は被保険者であつた者の死亡前に、その者の死亡によつて遺族厚生年金の受給権者となるべき者を故意に死亡させた者についても、同様とする。
- 2.遺族厚生年金の受給権は、受給権者が他の受給権者を故意に死亡させたときは、消滅する。
この条文の基本情報
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 厚生年金保険法第76条は、日本の厚生年金保険法に含まれる条文です。
- 厚生年金保険法第76条の条文原文は「遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であつた者を故意に死亡させた者には、支給しない。」で始まります。
- 厚生年金保険法第76条は第五節に置かれています。
- 厚生年金保険法の公布日は昭和29年5月19日です。
- 厚生年金保険法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年10月2日時点では廃止情報はありません。
- 厚生年金保険法第76条の前の条は厚生年金保険法第75条です。
- 厚生年金保険法第76条の次の条は厚生年金保険法第77条です。
- 厚生年金保険法第76条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第76条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000115 - 本サイト収録
厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第76条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年10月2日)https://lawplayer.com/jp/article/329AC0000000115/76
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点厚生年金保険法76条は、被保険者を故意に死亡させた者に遺族厚生年金を支給しないと定める。刑事処分は要件とされず、過失による死亡は文言に含まれない。
Q · 配偶者を死なせてしまった場合、遺族厚生年金は受け取れないのですか?
故意なら不支給、過失なら受け取れます
厚生年金保険法76条1項は、被保険者又は被保険者であった者を故意に死亡させた者に遺族厚生年金を支給しないと定めます。死亡前に、受給権者となるべき者を故意に死亡させた者も同様です。2項では、受給権者が他の受給権者を故意に死亡させたときに受給権が消滅します。条文は「故意」だけを要件としており、有罪判決を要求していないため、不起訴でも実施機関が独自に故意を認定すれば不支給はありえます。逆に過失による死亡は文言に含まれません。
解説
配偶者を亡くした人に支払われる遺族厚生年金には、たった一箇所だけ、絶対に開かない扉がある。故意にその人を死亡させた者には支給しない。多くの人が見落とすのは、この条文が刑事裁判の結果を一言も要求していない点だ。民法891条の相続欠格は「刑に処せられた者」を要件にするから、不起訴や無罪なら相続はできる。ところが厚生年金保険法76条にはその縛りがない。実施機関が独自に故意を認定すれば、刑事手続がどう転んでも支給は止まりうる。逆方向も同じで、条文が閉ざすのは「死亡させた者」の扉だけ。過失で死亡させた場合、たとえばあなたの運転する車の事故で配偶者を失った場合は、この条文の射程の外にある。さらに2項は、遺族どうしの間にも同じ刃を向ける。受給権者が他の受給権者を故意に死亡させれば、殺した側の受給権はその時点で消滅する。
法的な位置づけ
厚生年金保険法76条は、遺族厚生年金の支給制限を定める規定である。1項は、被保険者又は被保険者であった者を故意に死亡させた者、及びその死亡前に受給権者となるべき者を故意に死亡させた者を支給対象から除外する。2項は、受給権者が他の受給権者を故意に死亡させた場合に、その受給権が消滅すると定める。有罪判決の存在は要件とされていない。
よくある質問 AI による整理
Q1遺族厚生年金の支給制限とは何ですか?
厚生年金保険法76条により、被保険者を故意に死亡させた者には遺族厚生年金が支給されない制度です。全部不支給であり、情状による減額という仕組みはありません。
Q2無理心中で生き残った場合、遺族厚生年金はもらえますか?
受け取れません。配偶者を故意に死亡させた者に当たり、76条1項前段が正面から適用される最も典型的な場面です。刑事の量刑が軽くても結論は変わりません。
Q3遺族年金の不支給決定はいつまでに争えますか?
社会保険審査官への審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内です。期間を過ぎると、内容の当否を問う入口そのものが閉じます。
Q4傷害致死でも遺族厚生年金は支給されませんか?
傷害の故意はあっても死亡そのものへの故意がない類型で、実務上解釈が分かれます。刑事記録上、死の結果への認識がどう位置づけられたかが争点の中心になります。
Q5遺族の一人が他の遺族を殺したら、残りの遺族の年金はどうなりますか?
76条2項により、殺した側の受給権のみが消滅します。他の受給権者の権利は残り、同順位者の人数が変わることで一人あたりの年金額が変動しうります。
Q6遺族基礎年金にも同じ支給制限がありますか?
あります。国民年金法71条が同旨の支給制限を定めており、二階建て年金の一階部分でも故意に死亡させた者は排除されます。一階と二階が同時に止まる構造です。
Q7故意の認定は誰がするのですか?
実施機関(日本年金機構等)です。裁判所ではありません。条文が刑事処分を要件にしていないため、刑事手続の結論を待たずに年金側の判断が先に出ることがあります。
Q8一度不支給になった遺族厚生年金は後から復活しますか?
審査請求・再審査請求・取消訴訟で処分が取り消されれば支給されます。刑事で無罪や不起訴になったから自動的に復活するという仕組みは条文にありません。
この条文についての質問 AI による整理
Q1交通事故でうっかり配偶者を死なせてしまいました。遺族年金ももらえないんでしょうか?
受け取れる。76条が排除するのは「故意に死亡させた者」だけで、過失は含まれない。自動車運転死傷行為処罰法で実刑を受けても、遺族厚生年金の受給資格は別問題として残る。実務のポイント:年金は出るが保険は出ないというねじれが起きる。任意保険の対人賠償には父母・配偶者・子への賠償を免責とする親族間免責条項がほぼ必ず入っており、自分の運転で家族を死なせた場合の賠償金は対象外になる。年金と保険を同じ発想で見積もると資金計画が崩れる。
Q2刑事では不起訴になったのに、年金だけ止められました。おかしくないですか?
制度上はありうる。76条は刑事処分を要件に書いておらず、実施機関が独自に故意を認定できる。相続欠格(民法891条)が「刑に処せられた者」を要件にするのと対照的である。実務のポイント:不起訴には嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予がある。起訴猶予は故意を前提に起訴しない判断なので、年金側では不利に働く。被疑者は不起訴処分の告知を請求でき(刑事訴訟法259条)、どの類型かを押さえられるかで審査請求の組み立てが変わる。
Q3殺そうとして未遂に終わり、夫はその後まったく別の病気で亡くなりました。年金はどうなりますか?
条文の文言は「死亡させた者」であり、未遂を含まないと読むのが素直である。一方、相続欠格(民法891条1号)は「死亡させようとしたために刑に処せられた者」も欠格とする。年金は受け取れるのに相続はできない、という逆転が起こりうる。ただし実務上、解釈が分かれうる領域である。実務のポイント:この文言差は偶然ではなく、年金給付が「その死によって生じた保険事故」を対象にする原理に立つためで、争いになれば条文の文言差を最初に指摘できるかが分かれ目になる。
間違えやすい点 AI による整理
- 「人を殺せば遺族年金は出ない」ことは多くの人が知っている。知られていないのは、その判断が刑事手続と独立に、しかも先に下されうる点だ。不起訴になっても、実施機関が独自に故意を認定すれば不支給はありうる。刑事で決着がついたから年金も戻る、という連動は条文のどこにも書かれていない
- 「殺意があったかどうか」を問いの中心に据える人が多いが、2項の場面ではもう一段手前の問いが要る。殺された人はその時点で受給権者だったのか。受給権者でない親族を死亡させても2項は動かず、被保険者の死亡前の出来事なら1項後段の側で処理される。問いの立て方を間違えると、争点整理そのものが空振りに終わる
- 遺族の側から見れば、家族を失った上に年金まで止められる二重の罰に映る。だが法の側から見れば、これは制裁ではなく、自ら作り出した保険事故で利益を得ることを認めないという保険法理の適用にすぎない。制裁でないからこそ、情状による減額という発想がなく、支給か不支給かの二択で切られる。この落差が、当事者の納得を最も遠ざける
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 制限の対象 | 厚年法76条:遺族厚生年金の支給・受給権 | 厚年法73条:故意による事故に基づく障害給付等 厚年法63条:遺族厚生年金の失権(婚姻・死亡・年齢等) |
| 発動事由 | 被保険者等または他の受給権者を故意に死亡させたこと | 自ら故意に障害・死亡の原因となる事故を生じさせたこと 本人の身分・生活状況の変動(本人の落ち度を問わない) |
| 効果の強さ | 全部不支給または受給権の消滅(減額という選択肢がない) | 給付の全部または一部の制限(73条の2は一部制限) 将来に向かって受給権が消滅 |
| 刑事処分との関係 | 刑事処分は要件でなく、実施機関が独自に故意を認定できる | 同じく刑事処分は要件でない 刑事処分とは無関係の客観的事由 |
他国ではどう定めているか 4 か国
台湾は保険給付を得る目的で故意に保険事故を生じさせた場合の給付制限を社会保険法規で定め、相続の側は民法1145条の相続権喪失で処理する。日本と同じく二層構造だが、年金側の文言は「保険給付を得る目的」という主観要件を伴う点で異なる
韓国も加入者等を故意に死亡させた遺族への不支給を明文化しており、日本の76条1項と同旨。刑事処分を要件としない点も共通する
ドイツは故意に死を惹起した遺族の遺族年金請求権を排除する。社会保険の給付制限を社会法典内で完結させる構造は、日本の厚年法76条と近い
米国は社会保障規則で遺族給付を排除しつつ、相続・保険金の側は州ごとの Slayer Rule が規律する。有罪判決を要求する州とそうでない州があり、刑事との連動度合いが州により分かれる
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 居眠り運転で助手席の妻を死なせてしまったら、遺族厚生年金は受け取れないのか。答えは受け取れる。76条が閉ざすのは「故意に死亡させた者」の扉だけで、過失はここに含まれない。自動車運転死傷行為処罰法で実刑を受けたとしても、遺族厚生年金の受給資格そのものは失われない。刑事責任と年金の受給資格は、最初から別の線路を走っている
- 長年の介護の末、意識の戻らない夫の生命維持を自分の手で止めた。刑事では執行猶予がついた。だが年金事務所から届く不支給決定通知に、猶予がついたことなど一行も書かれていない。決定を知った日の翌日から3か月、それが審査請求の窓口が開いている時間のすべてで、過ぎれば争う入口ごと閉じる
- 無理心中を図り、妻だけが亡くなり夫が生き残った。夫に遺族厚生年金は支給されない。76条1項前段が正面から適用される、最も典型的な場面である
- 先妻の子と後妻がともに遺族厚生年金の受給権者になっていたところ、金銭をめぐる争いの果てに一方が他方を殺害した。殺した側の受給権はその時点で消滅する(2項)。相続の側でも欠格になりうるが、そちらは刑に処せられることが要件。年金だけが先に止まり、相続の結論は刑事裁判の後、という時間差が生まれる
- 夫が末期の告知を受けている状況で、遺族の順位で先に立つ夫の子を後妻が故意に死亡させた。夫本人には一切手を出していない。それでも1項後段が働き、後妻に遺族厚生年金は支給されない。受給権の奪い合いそのものを封じるための後段である
取るべき行動
被害を受けた側:1. 加害者とされる者が自分と同順位か別順位かを確認する(遺族の範囲と順位は58条、59条)。2. 起訴状、判決書、不起訴処分の告知など刑事事件の記録を可能な範囲で集め、実施機関に提出する。3. 被保険者の死亡前の行為なら1項で相手は初めから受給権を持たず、死亡後なら2項で相手の受給権が消滅する。どちらに当たるかで自分の受給権や年金額が変わる。4. 相続の側では民法891条の欠格を並行して主張するが、そちらは刑に処せられたことが要件になる点を混同しない
訴えられた側:1. 不支給決定を知った日を確保する。社会保険審査官への審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から3か月。2. 争点は「故意」の一点に絞られる。過失致死は条文の文言に含まれず、傷害致死のように死亡そのものへの故意がない類型は実務上解釈が分かれるため、刑事記録上の位置づけを固める。3. 不起訴の告知書、無罪判決、精神鑑定書は有力な資料になる。4. 棄却されたら社会保険審査会への再審査請求、その後に取消訴訟という三段構えで設計する
時効(請求できる期限):本条自体に期間の定めはなく、時間が問題になるのは争う側である。不支給決定に対する審査請求は処分があったことを知った日の翌日から3か月、再審査請求は決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月。年金を受ける権利自体の消滅時効は支給事由が生じた日から5年(厚生年金保険法92条)で、各支払期月ごとに進行する(最新の改正状況をご確認ください)
学説
通説:76条は制裁規定ではなく、自ら作り出した保険事故による利得を否認する保険法理の適用と解される。したがって情状による減額の余地はなく、要件該当性は全部不支給か否かの二択で判断される
解釈が分かれる領域:傷害致死のように死の結果への故意を欠く類型、および殺人未遂に終わり別原因で死亡した場合の扱いは、条文の文言(死亡させた者)との関係で議論があり、実務上の処理も一様ではない
改正沿革 AI による整理
改正の年表
- 1.昭和29年(1954年) 新設:厚生年金保険法の全部改正(昭和29年法律第115号)により現行法が成立し、遺族厚生年金の支給制限として本条が置かれた
- 厚生年金保険法 第58条遺族厚生年金の支給要件、本条が例外的に遮断する対象
- 厚生年金保険法 第59条遺族の範囲と順位、2項の受給権者性の判断前提
- 厚生年金保険法 第63条遺族厚生年金の失権事由、2項と並ぶ受給権消滅類型
- 厚生年金保険法 第73条故意による事故についての給付制限、同一原理の障害給付版
- 厚生年金保険法 第73条の2故意の犯罪行為等による一部制限、全部不支給の本条と対比
- 国民年金法 第71条遺族基礎年金における同旨の支給制限、二階建て構造の一階部分
- 民法 第891条相続欠格、刑に処せられたことを要件とする点で対照
- 労働者災害補償保険法 第16条の9遺族補償年金における同旨の遺族資格排除(現行効力を要確認)
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