信託法 第89条(受益者指定権等)
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- 受益者を指定し、又はこれを変更する権利(以下この条において「受益者指定権等」という。)を有する者の定めのある信託においては、受益者指定権等は、受託者に対する意思表示によって行使する。
- 2.前項の規定にかかわらず、受益者指定権等は、遺言によって行使することができる。
- 3.前項の規定により遺言によって受益者指定権等が行使された場合において、受託者がこれを知らないときは、これにより受益者となったことをもって当該受託者に対抗することができない。
- 4.受託者は、受益者を変更する権利が行使されたことにより受益者であった者がその受益権を失ったときは、その者に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
- 5.受益者指定権等は、相続によって承継されない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
- 6.受益者指定権等を有する者が受託者である場合における第一項の規定の適用については、同項中「受託者」とあるのは、「受益者となるべき者」とする。
この条文の基本情報
受益者指定権等とは何ですか?
定義受益者指定権等とは、信託法第89条に定められた規定で、「受益者を指定し、又はこれを変更する権利(以下この条において「受益者指定権等」という。」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 信託法第89条(受益者指定権等)は、日本の信託法に含まれる条文です。
- 信託法第89条の条文原文は「受益者を指定し、又はこれを変更する権利(以下この条において「受益者指定権等」という。」で始まります。
- 信託法第89条は第一節 受益者の権利の取得及び行使に置かれています。
- 信託法の公布日は平成18年12月15日です。
- 信託法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 信託法第89条の前の条は信託法第88条です。
- 信託法第89条の次の条は信託法第90条です。
- 信託法第89条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
信託法(平成十八年法律第百八号)第89条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108 - 本サイト収録
信託法(平成十八年法律第百八号)第89条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/418AC0000000108/89
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点信託法89条は、受益者を指定・変更する権利を受託者への意思表示または遺言で行使すると定める。遺言による行使は受託者が知るまで対抗できず、権利は原則として相続されない。
Q · 遺言で信託の受益者を変えたら、亡くなった時点で新しい受益者がすぐ受け取れるの?
受託者が遺言を知るまで、新受益者は受託者に対抗できない
信託法89条2項により、受益者指定権等は遺言でも行使できます。ただし同条3項により、受託者がその遺言を知らない間は、新たに受益者となった人は受託者に対して自分が受益者だと主張できません。その間に受託者が旧受益者へ行った給付は原則として有効なため、新受益者は旧受益者に不当利得の返還を求めることになります。遺言者の死亡後は、速やかに遺言書の写しを添えて受託者へ通知することが重要です。
解説
家族信託や信託銀行の遺言代用信託では、「誰に財産を渡すか」を後から決め直せる権利を契約に入れておけることがある。法律上の呼び名は「受益者指定権等」である。多くの人はこの権利を「持っていれば自由に使えるもの」と考えるが、信託法89条は使い方を厳しく決めている。まず、行使は受託者(財産を預かって管理する人や会社)への意思表示で行う。遺言でも行使できる。ただし受託者がその遺言を知らないうちは、新しく受益者になった人は受託者に「自分が受益者だ」と主張できない。そのため、受託者が古い受益者に払ったお金は原則として取り戻せない。さらにこの権利は相続されない。父が持っていた変更権は、契約書に定めがなければ父の死亡と同時に消え、受益者の顔ぶれはその時点で固まる。あなたが持つべき問いは「変更できるか」ではない。「誰に、いつ、どの書面で届くか」である
法的な位置づけ
信託法89条は受益者指定権等の行使方法と性質を定める規定である。受益者指定権等とは、信託行為の定めに基づき受益者を指定し、又は変更する権利をいう。行使は受託者に対する意思表示又は遺言により、遺言による行使は受託者が知るまで対抗できない。権利は原則として相続により承継されず、受託者自身が権利者のときは受益者となるべき者への意思表示で行使する。
手順
- 1.信託契約の受益者指定権条項を確認する 信託契約書(または信託を設定した遺言)を取り寄せ、受益者指定権等の権利者、承継の定め(89条5項ただし書)、旧受益者への通知に関する別段の定め(89条4項ただし書)の有無を確認する
- 2.遺言書の写しを準備する 遺言で受益者指定権等が行使されている場合、公正証書遺言の正本または謄本、自筆証書遺言なら検認済みの遺言書(法務局保管なら遺言書情報証明書)の写しを用意する
- 3.受託者へ書面で通知する 遺言書の写しを添え、受益者指定権等が遺言により行使されたことを受託者に書面で通知する。到達日を証明できるよう内容証明郵便または受領書付きの手渡しで行う
- 4.通知前の給付分を整理する 受託者が遺言を知る前に旧受益者へ給付した分を受託者から確認し、必要に応じて旧受益者に不当利得返還(民法703条)を求める。並行して遺留分の問題がないか弁護士に確認する
よくある質問 AI による整理
Q1受益者指定権とは何ですか?
信託行為の定めに基づき、受益者を誰にするかを指定したり後から変更したりできる権利です。信託法89条が行使方法と性質を定めています。
Q2受益者変更権の行使方法は?
原則として受託者に対する意思表示で行使します(信託法89条1項)。到達日の証拠を残すため、書面や内容証明郵便で行うのが実務的です。
Q3受益者変更権は遺言で行使できる?
できます(信託法89条2項)。ただし受託者が遺言を知らない間は、新受益者は受託者に対抗できないため、死亡後すぐの通知が欠かせません。
Q4受益者変更権は相続される?
原則として相続されません(信託法89条5項)。信託契約や遺言に承継の定めがある場合に限り、その定めに従って引き継がれます。
Q5家族信託 受益者変更 いつまでに通知すべき?
法定の期限はありませんが、受託者が知るまで新受益者は対抗できません。遺言者の死亡後、できるだけ早く遺言書の写しを添えて通知するのが安全です。
Q6受託者が受益者指定権を持つ場合はどうなる?
受託者自身が権利者の場合、受託者への意思表示は意味をなさないため、受益者となるべき者への意思表示で行使します(信託法89条6項)。
Q7受益者から外されたら通知は来る?
受託者は旧受益者に遅滞なく通知する義務を負います(信託法89条4項)。ただし信託行為で別段の定めを置けば通知は省略できます。
Q8受益者変更は遺留分侵害になる?
受益者変更の結果、相続人の遺留分が侵害されれば遺留分侵害額請求(民法1046条)を検討できます。信託への遺留分の及び方は解釈が分かれています。
この条文についての質問 AI による整理
Q1親が信託契約で受益者を変えられることになってたんですが、遺言で変えても有効なんですか?
有効である。信託法89条2項は、受益者指定権等を遺言で行使することを認めている。ただし3項により、受託者がその遺言を知らない間は、新受益者は受託者に対抗できない。実務のポイント:遺言を作るとき、遺言執行者に「死亡後ただちに受託者へ通知する」ことを任務として書き込んでおく実務家は多い。これがないと、相続人の誰も信託の存在に気付かず、数か月放置されることが珍しくない
Q2受益者を変える権利を持ってた父が亡くなりました。長男の自分が引き継げますよね?
原則として引き継げない。89条5項は、受益者指定権等が相続で承継されないと定めている。例外は、信託行為(契約書や遺言)に承継の定めがある場合だけである。実務のポイント:受託者は「契約書に書いていないことはできない」と慎重に対応するのが通常である。まず契約書の該当条項を探し、承継の定めがなければ受益者は父の死亡時点で確定したと考えて次の手を練る
Q3知らないうちに受益者から外されてました。こういうのって防げないんですか?
受託者には、受益権を失った人へ遅滞なく通知する義務がある(89条4項)。ただし信託行為で別の定めを置けば通知を省ける。変更自体を止めることは難しいが、遺留分を侵害されていれば遺留分侵害額請求(民法1046条)を検討できる。信託がどこまで遺留分の対象になるかは、実務上、解釈が分かれている。実務のポイント:東京地判平成30.9.12は、遺留分制度を潜脱する目的の信託について、一部を公序良俗違反で無効とした。「信託だから遺留分は及ばない」という説明は鵜呑みにしないこと
間違えやすい点 AI による整理
- 「遺言で受益者を変えたのだから、亡くなった瞬間に新しい受益者が全部受け取れる」と思われがちである。実際には、受託者がその遺言を知るまでは、新受益者は受託者に対抗できない(89条3項)。その間に旧受益者へ払われた分は、旧受益者に不当利得として返してもらうしかなく、回収の手間とリスクは新受益者が負う
- 受益者変更権が相続されないことは知っていても、その深刻さに気付いていない人が多い。指定権者が亡くなると変更の手段そのものが消え、受益者はその時点の状態で固定される。「いずれ父が状況を見て決める」という前提で組んだ家族信託は、父の死で計画ごと凍結される
- 「受益者を外されたら必ず通知が来るはずだ」と待っていること自体が危うい。4項の通知義務は、信託行為(信託契約や遺言)で別の定めを置けば外せる。通知が来ないことは、何も起きていないことを意味しない
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 規律対象 | 信託法89条:受益者指定権等の行使方法・非承継性 | 信託法88条:指定された受益者による受益権の当然取得と受託者の通知 信託法90条:遺言代用信託における委託者の受益者変更権 |
| 権利者 | 信託行為で定められた受益者指定権等を有する者 | (権利行使ではなく受益者の地位取得を定める) 委託者(信託行為に別段の定めがない限り) |
| 受託者への効力 | 受託者への意思表示で行使、遺言なら受託者が知るまで対抗不可 | 受益者は意思表示なしに受益権を取得、受託者は遅滞なく通知 委託者の権利行使には89条の方式が及ぶ |
| 信託の変更との関係 | 受益者の入れ替えのみ、他の信託条項は変わらない | 受益者の確定場面を扱う 信託法149条の信託の変更(関係者合意)とは別の単独行為 |
他国ではどう定めているか 4 か国
委託人と受益人が異なる場合、信託行為に留保がない限り信託成立後に受益人を変更できない。日本のように行使方法・非承継性を一条にまとめた規定はない
2011年の全部改正で、日本の新信託法を参照しつつ受益者指定権・変更権の行使方法や承継について規定を整備した
委託者が受益者を変更できる場面を、受益者の重大な侵害行為や信託文書の定めがある場合などに限定列挙する
ドイツには一般的な信託法典がなく、第三者のためにする契約で受益者交替権を留保した場合に死因処分による変更を認める規定が機能的に近い
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 父が亡くなり、公正証書遺言を開いたら「信託の受益者を長男から次男に変更する」と書いてあった。次男のあなたが四十九日まで遺言の存在を信託銀行に伝えずにいたら、その間の給付金は長男の口座に振り込まれ続ける。89条3項により、受託者には文句を言えない
- 受託者である信託銀行から「受益権を失った」という通知が届いた。何も聞かされていなかった長女のあなたは、この通知が89条4項に基づくものだと知らないまま放置しかけている。遺留分侵害額請求の1年の期限は、もう動き始めているかもしれない
- 家族信託で受託者を務める長男が、母の福祉のために「孫の誰を受益者にするか」を選ぶ権限も持っている。あなたが受託者なら、その選択は誰に伝えれば効力が生じるのか? 答えは自分自身ではなく、受益者となるべき孫本人への意思表示である(89条6項)
- 受益者変更権を持っていた祖父が急死した。残された家族は「変更権は父が相続したはず」と考えている。契約書に承継の定めがなければ、その前提はもう崩れている
- あなたが司法書士として家族信託の組成を頼まれた。依頼者は「状況を見て後で受益者を決めたい」と言う。指定権者の死亡や認知症に備える条項を入れずに契約を作れば、10年後に計画が動かなくなる
取るべき行動
被害を受けた側:新受益者に指定された場合:1. 遺言書(公正証書遺言なら正本または謄本)の写しを用意し、受託者へ書面で通知する。内容証明郵便なら到達日の証拠が残る2. 通知までに旧受益者へ給付された分があれば、旧受益者に不当利得の返還を求める(民法703条) 3. 受益者から外された側なら、89条4項の通知を受けた日を記録し、遺留分侵害の有無を弁護士に早めに確認する
訴えられた側:受託者の立場で:1. 受益者指定権等の行使を受けたら、意思表示の到達日と内容を記録する2. 遺言による行使の可能性を知ったら、真偽を確認するまで給付を一時保留するかどうか判断する3. 旧受益者には、信託行為で別の定めがない限り遅滞なく受益権喪失を通知する(89条4項)。通知を怠ると、旧受益者から責任を追及される火種になる
時効(請求できる期限):本条に特定の時効はない。ただし遺言による行使は、受託者が知るまで受託者に対抗できないため、遺言者の死亡直後の通知が実質的な期限となる。旧受益者への不当利得返還請求は一般消滅時効(民法166条:権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年)。遺留分侵害額請求は、相続開始と侵害を知った時から1年(民法1048条)
学説
通説:受益者指定権等は、委託者が特定の者の判断を信頼して付与するものであり、一身専属的な性格を持つ。そのため89条5項は相続による承継を原則否定し、必要があれば信託行為で承継者を定めるべきとしている
改正沿革 AI による整理
- 平成18年(2006年)新信託法制定、平成19年(2007年)施行 大正11年制定の旧信託法を全面的に改めた新信託法で、受益者指定権等の行使方法、遺言による行使、通知義務、非承継性を定める規定として新設された
改正の年表
- 1.平成18年(2006年) 新設:旧信託法(大正11年)を全面改正した新信託法で、受益者指定権等の行使方法、遺言による行使、旧受益者への通知義務、非承継性を定める規定として新設。平成19年(2007年)施行
- 信託法 第88条受益者の受益権当然取得と受託者の通知
- 信託法 第90条遺言代用信託の委託者の受益者変更権
- 信託法 第91条受益者連続信託の存続期間の制限
- 信託法 第149条信託の変更の方法、受益者変更との区別
- 保険法 第44条遺言による保険金受取人変更の対抗要件
- 民法 第1046条遺留分侵害額請求、受益者変更への対抗手段
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