信託法 第98条
クイックジャンプ
- 受益権の質権者は、前条の金銭等(金銭に限る。)を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができる。
- 2.前項の債権の弁済期が到来していないときは、受益権の質権者は、受託者に同項に規定する金銭等に相当する金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
この条文の基本情報
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 信託法第98条は、日本の信託法に含まれる条文です。
- 信託法第98条の条文原文は「受益権の質権者は、前条の金銭等(金銭に限る。」で始まります。
- 信託法第98条は第一款 受益権の譲渡等に置かれています。
- 信託法の公布日は平成18年12月15日です。
- 信託法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 信託法第98条の前の条は信託法第97条です。
- 信託法第98条の次の条は信託法第99条です。
- 信託法第98条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
信託法(平成十八年法律第百八号)第98条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108 - 本サイト収録
信託法(平成十八年法律第百八号)第98条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/418AC0000000108/98
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点信託法98条は、受益権の質権者が金銭に限り受託者から直接受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てられると定める。弁済期前は受託者に供託させることができる。
Q · 信託受益権に質権を付けたら、配当を受託者から直接もらえるの?
金銭なら直接受け取れ、弁済期前は供託させられる
信託法98条1項により、受益権の質権者は、97条に定める金銭等のうち金銭に限って受託者から直接受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができます。自分の債権の弁済期がまだ来ていない場合は、同条2項により受託者に相当額を供託させることができ、質権はその供託金の上に存続します。不動産や別の受益権など、金銭以外の財産が交付された場合は直接受領の対象外です。
解説
信託受益権に質権を設定した貸し手は、借り手を通さずに受託者から直接お金を受け取り、そのまま自分の貸金に充てることができる。受益者(信託から利益を受ける人)の同意をあらためて取る必要はない。先立って弁済に充てるので、他の債権者より先に回収できる。日本の不動産ファイナンスでは、物件そのものではなく「不動産信託受益権」に質権を付けて融資する形が広く使われている。98条は、その貸し手が配当や売却代金を直接受け取れる根拠の一つになっている。ただし注意点が二つある。一つ目に、直接受け取れるのは金銭だけである。現物の財産や新しい受益権が渡された場合、この条文の直接受領は使えない。二つ目に、自分の貸金の弁済期がまだ来ていない場合は受け取れない。その代わり、受託者に同じ金額を供託させることができる(供託:お金を法務局に預けて、勝手に動かせなくすること)。そうすると質権はその供託金の上に移る。受益者が先に受け取って使ってしまう事態を、この2項が防いでいる。
法的な位置づけ
信託法98条は、受益権を目的とする質権の実行方法を定める規定である。質権者は、受益債権に基づく給付や受益権取得請求の代金など97条の金銭等のうち金銭に限り、受託者から直接受領して優先的に自己の債権の弁済に充当できる。被担保債権の弁済期前は受託者に供託させることができ、質権は供託金について存続する。
手順
- 1.質権設定と対抗要件を確認する 質権設定契約書と、受託者への通知・承諾など対抗要件の具備状況を書面で確認する。信託行為に質入れ制限(信託法96条)がないかも併せて確認する
- 2.金銭が出る場面を洗い出す 信託契約を読み、配当日、受益権取得請求、信託の変更・併合・分割、売却代金の分配など、97条の金銭等が交付される場面とその時期を一覧化する
- 3.支払日前に受託者へ直接受領を通知する 被担保債権の弁済期が到来している場合、支払日より前に受託者へ「信託法98条1項に基づき直接受領する」旨と振込先を書面で通知する
- 4.弁済期前なら供託を請求する 被担保債権の弁済期が未到来の場合、受託者に対し98条2項に基づき相当額の供託を書面で請求する。期限の利益喪失条項で期限を到来させられるかも併せて検討する
よくある質問 AI による整理
Q1信託受益権の質権とは何ですか?
受益者が持つ受益権(信託から利益を受ける権利)を担保として質に入れることです。信託法96条が質入れを認め、98条が金銭の直接受領を定めています。
Q2信託法98条で直接受け取れるのは何ですか?
97条の金銭等のうち金銭に限られます。配当金や受益権取得請求の代金などの現金が対象で、不動産や新しい受益権などの現物は対象外です。
Q3受益権の質権者は他の債権者より優先されますか?
優先されます。98条1項は、質権者が受領した金銭を他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てられると定めています。
Q4弁済期前に信託から配当が出たらどうなりますか?
98条2項により、質権者は受託者に相当額を供託させることができます。質権は供託金の上に移り、弁済期到来後にそこから回収します。
Q5不動産信託受益権を担保にした融資の回収方法は?
配当や売却代金など金銭が出る場面で、受託者から直接受領して充当するのが基本です。現物が交付される場合は担保権実行など別の手続を検討します。
Q6受益権の質入れは信託契約で禁止できますか?
信託法96条により、信託行為で質入れについて別段の定めを置くことができます。家族信託では質入れ制限条項の要否が設計上の論点になります。
Q7受益権質権と株式質権の違いは?
構造はほぼ同じで、会社法154条が株式質権者の金銭直接受領を定めています。信託法98条は対象が信託受益権である点が異なります。
Q8供託された金銭はいつ受け取れますか?
被担保債権の弁済期が到来した後、供託金の上に存続する質権に基づいて回収します。具体的な払渡手続は法務局・弁護士に確認が必要です。
この条文についての質問 AI による整理
Q1受益権を質に取ったら、受益者の同意なしで配当を受け取っちゃっていいんですか?
金銭であれば、信託法98条1項に基づいて受託者から直接受領し、他の債権者に先立って自分の債権の弁済に充てることができる。受領のたびに受益者の同意を取る必要はない。実務のポイント:実際に揉めるのは受託者が誰に払うかである。対抗要件の具備と受託者への事前通知が不十分だと、受託者は受益者に払ってしまう。権利があることと、実際にお金が自分に流れることは別物である
Q2まだ返済期限が来てないのに物件が売れて代金が出たら、どうすればいい?
98条2項に基づき、受託者にその金額を供託させることができる。供託後、質権は供託金の上に存在するので、期限が来たらそこから回収する。実務のポイント:融資契約に期限の利益喪失条項(一定の事由があれば返済期限を前倒しにできる条項)があれば、売却を理由に期限を到来させて1項で直接受領する道もある。供託か期限前倒しかは、契約条項の文言で決まる
Q3信託から出てきたのが現金じゃなくて不動産や別の受益権だったら?
質権の効力は信託法97条により、そうした金銭等にも及ぶ。しかし98条の直接受領・充当は「金銭に限る」とされている。現物の場合は、質権の実行として民事執行法などの手続を検討することになる。実務のポイント:プロの貸し手は、信託の分割・併合や現物分配の可能性を見越して、融資契約に追加担保の設定義務や換価方法の特約を入れている。法律の空白は契約で塞ぐのが定石である
間違えやすい点 AI による整理
- 「受益権に質権を付けておけば、信託から出てくるものは何でも自由に回収できる」と考えがちだが、98条1項はわざわざ「金銭に限る」と書いている。質権の効力自体は97条で現物の財産や新しい受益権にも及ぶ。しかし直接受領して弁済に充てる手段が用意されているのは金銭だけである。現物配当が想定される信託で融資する場合、この差は契約設計の段階で埋めておかなければならない
- 弁済期前に配当が出たら質権者は損をする、という見方は問題の立て方がそもそもずれている。2項の供託請求によって、質権はそのまま供託金の上に移る。損をするのは、供託させる手続を取らずに受益者への支払いを見過ごした質権者のほうである。焦点は「期限前だから受け取れない」ことではなく、「期限前に何をしておくか」である
- 受託者から見れば、受益者に配当を払うのはいつもの業務にすぎない。しかし法律から見れば、質権の通知を受けた後は誰に払うかで責任が変わる局面である。この落差に気付かないまま受益者に払い続けると、受託者が質権者との板挟みになる(対抗要件の具体的な扱いは実務上の確認が必要である)
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 規律する内容 | 信託法98条:金銭の直接受領・優先充当と弁済期前の供託請求 | 信託法97条:質権の効力が及ぶ金銭等の範囲 信託法96条:受益権の質入れの可否と信託行為による制限 |
| 対象となる財産 | 97条の金銭等のうち金銭に限る | 受益債権に基づく給付、受益権取得請求、併合・分割等で受益者が受ける金銭等(現物を含む) 受益権そのもの |
| 実務上の機能 | 回収の実行手段(現金の流れを質権者へ切り替える) | 担保の及ぶ範囲を確定する そもそも質権を設定できるかを決める |
他国ではどう定めているか 5 か国
台湾信託法は受益権の譲渡に民法を準用し、質入れは民法の権利質権の規定による。金銭債権質の清償期が先に到来すれば提存請求ができる点は、日本の98条2項と発想が近い
韓国民法も債権質権者の直接請求と、弁済期前の供託請求を定める。信託受益権の質入れも基本的にこの枠組みで処理される
ドイツには英米型の信託法はないが、債権質について Pfandreife 前は共同受領または供託、Pfandreife 後は質権者の取立てを認める。日本の98条の二段構えの原型といえる
フランスの債権質(nantissement de créance)では質権者のみが支払を受ける権利を持ち、被担保債権が未到来なら受領金を専用口座で担保として保持する
米国では担保権者が債務不履行後に第三債務者へ通知し、直接取り立てることができる。信託受益権も担保の対象となり得るが、州法による差異がある
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 家族信託で父の賃貸アパートの受益者になったあなたが、事業資金を借りるために受益権を質に入れた。返済が遅れると、毎月の賃料配当は受託者である兄から貸し手の口座へ直接振り込まれる。家族会議で決めた資金の流れが、ある月から突然変わる
- もし信託財産の物件が売れ、売却代金が受益者に分配されることになったのに、貸金の弁済期はまだ半年先だったら、貸し手は指をくわえて待つしかないのか? そうではない。受託者に同じ金額を供託させれば、そのお金は誰も勝手に動かせなくなる
- あなたは受託者として信託を管理していて、受益権に質権が設定されていると通知を受けていた。それなのに、いつもどおり受益者本人に配当を振り込んでしまった。質権者から「その支払いは私には対抗できない」と言われ、二重払いのリスクが現実になる
- メザニン融資の貸し手として、不動産信託受益権の質権を持っている。受益者側が受益権取得請求(受託者に受益権を買い取らせる請求)をして、買取代金が出ることが分かった。期日まであと10日。受領するのか供託させるのか、今すぐ受託者へ書面で通知しないと、お金は受益者の口座に流れてしまう
- 信託の分割で、受益者に金銭ではなく別の信託の受益権が割り当てられた。質権はその新しい受益権にも及ぶが、98条の「直接受け取って充当する」は使えない。現物を受け取った場合は回収の道筋がまったく別になる
取るべき行動
被害を受けた側:(質権者の立場)1. 質権設定と対抗要件の具備(受託者への通知・承諾など)を書面で確認する2. 信託行為(信託契約)を読み、配当日、受益権取得請求、信託の分割・併合など金銭が出る場面を洗い出す3. 支払いの前に、受託者へ直接受領の意思を書面で通知する4. 自分の債権の弁済期前なら、98条2項に基づき受託者に供託を求める5. 現物が交付される場合は、民事執行など別の回収手段を弁護士と検討する
訴えられた側:(受益者・受託者の立場)受益者は、質権者が受領できるのは金銭に限られ、自分の被担保債権(担保で守られている貸金)の範囲に限られることを確認し、超過分の返還を求める(範囲は解釈で確認)。受託者は、質権の通知を受けたら支払先を社内で切り替え、誰に払うべきか争いがあれば供託で二重払いのリスクを避ける。質権設定そのものが信託行為の譲渡・質入れ制限に反していないかも確認する
時効(請求できる期限):98条自体に特定の期間制限はない。被担保債権には一般消滅時効(民法166条、知った時から5年、行使できる時から10年)が適用される。受益債権の期間制限については信託法102条に特則がある(最新の改正状況をご確認ください)。実務上の分水嶺は、配当・代金の支払日より前に受託者へ通知できるかどうかである
改正沿革 AI による整理
- 平成18年(2006年)信託法制定(平成19年施行) 大正11年の旧信託法を全面的に改めた新信託法で、受益権の質入れに関する規定群(96条から98条)が整備された。その後の改正の有無は人による確認が必要
改正の年表
- 1.平成18年(2006年) 新設:旧信託法(大正11年法律第62号)を全面的に改めた新信託法(平成18年法律第108号)で、受益権の質入れに関する規定群(96条から98条)の一つとして新設された。その後の改正の有無は人による確認が必要
- 信託法 第96条受益権の質入れの可否と制限
- 信託法 第97条質権の効力が及ぶ金銭等の範囲
- 信託法 第93条受益権の譲渡性、質入れの前提
- 民法 第366条債権質権者の直接取立てと供託の一般則
- 会社法 第154条株式質権者の金銭直接受領、同構造の規定
ログインすると、この条文にメモを残して他の利用者と共有できます。
ログインして共同ノートを始める