信託法 第99条
クイックジャンプ
- 受益者は、受託者に対し、受益権を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、受益者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。
- 2.受益者は、前項の規定による意思表示をしたときは、当初から受益権を有していなかったものとみなす。ただし、第三者の権利を害することはできない。
この条文の基本情報
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 信託法第99条は、日本の信託法に含まれる条文です。
- 信託法第99条の条文原文は「受益者は、受託者に対し、受益権を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、受益者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。」で始まります。
- 信託法第99条は第二款 受益権の放棄に置かれています。
- 信託法の公布日は平成18年12月15日です。
- 信託法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 信託法第99条の前の条は信託法第98条です。
- 信託法第99条の次の条は信託法第100条です。
- 信託法第99条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
信託法(平成十八年法律第百八号)第99条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108 - 本サイト収録
信託法(平成十八年法律第百八号)第99条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/418AC0000000108/99
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点信託法99条により、受益者は受託者への意思表示で受益権を放棄でき、当初から受益者でなかったものとみなされる。ただし信託行為の当事者は放棄できない。
Q · 知らないうちに信託の受益者にされていたら、降りることはできるの?
受託者に放棄を伝えれば、最初から受益者でなかったことになる
信託法99条1項により、受益者は受託者に対して受益権を放棄する意思表示をすることができます。放棄すると、同条2項により当初から受益権を有していなかったものとみなされます。ただし、自ら信託契約に署名した委託者兼受益者のように信託行為の当事者である場合は放棄できません。また、受益権を差し押さえた債権者や質権者など第三者の権利は、放棄しても消えません。相続放棄とは別の手続です。
解説
信託の受益者になるのに、本人の同意は要らない。信託法88条により、受益者として指定された者は、原則として知らないうちに受益権(信託から利益を受け取る権利)を当然に取得する。親が組んだ家族信託、祖父の遺言信託、勤務先が設定した従業員向けの信託。気付いたら自分の名前が「受益者」欄に載っていた、ということは現実に起きる。99条は、受け取りたくない立場から降りるための出口である。受託者(財産を預かって管理する人)に放棄の意思表示をすれば、最初から受益者でなかったことになる。ただし壁が二つある。一つ目は、自分も信託契約にサインした当事者であれば、この出口は使えないこと。二つ目は、すでに受益権を差し押さえた債権者など、第三者の権利は消せないことだ。もう一つ見落とされやすい点がある。相続放棄をしても、信託の定め方によっては受益権が別ルートで手元に残りうる。降りたいなら、受託者宛てに別途、書面で意思表示を届けなければならない。
法的な位置づけ
信託法99条は受益権の放棄を定める規定であり、受益者は受託者に対する意思表示によって受益権を放棄することができる。放棄の効果は遡及し、受益者は当初から受益権を有していなかったものとみなされる。ただし受益者が信託行為の当事者である場合は放棄できず、遡及効は第三者の権利を害することができない。
手順
- 1.信託行為の内容と自分の立場を確認 受託者から信託契約書または遺言の写しを取り寄せ、受益者条項と、自分が委託者・受託者として署名した当事者かどうかを確認する。当事者であれば99条の放棄は使えない
- 2.給付の受領を止めて記録を残す 方針が決まるまで受益権からの給付を受け取らない。口座への振込みがあれば日付と金額を記録し、返還や清算の協議に備える
- 3.受託者宛てに放棄の意思表示を送付 「信託法99条に基づき受益権を放棄する」と明記した書面を、内容証明郵便(配達証明付き)で受託者宛てに送る。相続放棄の受理通知書の写しだけでは足りない
- 4.税務と相続全体を専門家に確認 相続放棄の申述(民法915条の熟慮期間3か月)や相続税申告期限(10か月)と並行し、課税関係を税理士に、相続・信託全体の整理を弁護士または司法書士に確認する
よくある質問 AI による整理
Q1受益権の放棄とは何ですか?
信託の受益者が、受託者に意思表示をして受益者の地位から降りることです。信託法99条が根拠で、放棄すると当初から受益権がなかったものとみなされます。
Q2受益権の放棄はいつまでにできますか?
信託法99条には期限の定めがありません。ただし受益権が差し押さえられたり質入れされた後は、その第三者の権利を害することはできません。
Q3受益権の放棄は口頭でもできますか?
条文上は受託者への意思表示で足り、方式の定めはありません。ただし到達や内容の立証のため、内容証明郵便など書面で行うのが実務上安全です。
Q4受益権の放棄は誰に伝えればいいですか?
受託者です(信託法99条1項)。委託者や家庭裁判所、他の受益者に伝えても、条文上の放棄の意思表示にはなりません。
Q5遺言信託の受益者は放棄できる?
できます。遺言は委託者の単独行為なので、受益者は信託行為の当事者に当たらず、99条1項但書の制限を受けないと考えられます。
Q6受益権を放棄すると贈与税や相続税はかからない?
受益者は相続税法9条の2により課税対象となりうるため、放棄した場合の課税関係は個別判断です。申告前に税理士に確認してください。
Q7受益権の放棄は撤回できますか?
信託法99条に撤回の定めはなく、放棄の意思表示が受託者に到達すると効果が生じます。安易な撤回は前提にせず、慎重に判断する必要があります。
Q8受益権を放棄したら受託者の監督権もなくなる?
放棄により当初から受益者でなかったことになるため、受益者として持つ監督的権利(信託法92条等)も行使できなくなると考えられます。
この条文についての質問 AI による整理
Q1相続放棄したんですけど、親の家族信託の受益者からも外れたことになりますか?
信託の定め方による。第二受益者のように信託行為から直接受益権を取得する場合(信託法88条)、相続放棄(民法939条)の効果はその受益権に及ばないと考えられる。外れたいなら、99条に基づき受託者宛てに別途意思表示が必要である。実務のポイント:家庭裁判所の相続放棄申述受理通知書の写しを受託者に送るだけでは、受益権放棄の意思表示と扱われない危険がある。文面に「受益権を放棄する」と明記すること
Q2自分で作った信託で自分が受益者なんですけど、やめたいときは放棄すればいいんですか?
放棄はできない。委託者兼受益者は信託行為の当事者なので、99条1項但書に当たる。代わりの出口は信託法164条1項で、委託者と受益者はいつでも合意により信託を終了できる。両方が自分であれば、実質的に自分の判断で終了できる。実務のポイント:家族信託の契約書には、164条3項に基づいて終了を制限する別段の定めが入っていることが多い。やめられると思い込む前に、終了条項を必ず読むこと
Q3放棄する前にもらった配当って、返さないといけないんですか?
99条2項本文により当初から受益権がなかったものとみなされるため、受け取った給付は法律上の原因を欠き、不当利得(民法703条)として返還を求められる余地がある。ただし明文の規定はなく、実務上も解釈が分かれている。実務のポイント:最も安全なのは、受け取る前に放棄することである。すでに受け取っている場合は、放棄と同時に受託者と清算方法を合意し、書面に残しておけば後の蒸し返しを防げる
Q4自分が放棄した分って、結局どこに行くんですか?
99条自体は行き先を定めていない。まず信託行為の定め(予備的な受益者の指定など)を確認し、なければ他の受益者の割合や、信託終了時の残余財産の帰属権利者(182条)の問題になる。受益者がいなくなって信託目的が達成できなくなれば、信託の終了(163条1号)もありうる。実務のポイント:あなたの放棄が、結果的に兄弟の取り分を増やすことがある。家族間で放棄を求められたときは、誰が得をするのかを先に計算すること
間違えやすい点 AI による整理
- 「受益者になるには自分の承諾が必要だ」と思われがちだが、信託法88条1項により、指定された者は原則として当然に受益権を取得する。受託者には通知義務(同条2項)があるものの、通知が届いたかどうかと権利を取得したかどうかは別の問題である
- 「相続放棄をすれば親の信託とも全部縁が切れるか」という問い自体がずれている。相続放棄(民法939条)の効果が及ぶのは相続財産である。一方、第二受益者として指定された受益権のように信託行為から直接取得するものは、相続とは別ルートで手元に来る。手続は二本立てで考えなければならない
- 放棄すれば「最初から受益者でなかった」ことになる遡及効は知られていても、2項但書の重さはあまり知られていない。受益権を差し押さえた債権者、受益権に質権を設定した金融機関、受益権を譲り受けた人。こうした第三者の権利は放棄によって消えない。受益権の放棄は債権者逃れの道具にはならない
- 受け取る側の感覚では「もらいすぎた分を返せば済む」と考えがちである。しかし法律上は、遡及効によって既に受け取った給付が法律上の原因を失い、不当利得として返還を求められる余地がある。どこまで返すかは明文がなく、実務上も解釈が分かれている。この空白が後で家族間の紛争の火種になる
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 制度の役割 | 信託法99条:受益者が一方的に受益権を放棄する出口 | 信託法88条:受益者は承諾なしに受益権を当然取得する入口 信託法164条:委託者と受益者の合意による信託終了 |
| 使える人 | 信託行為の当事者でない受益者 | 信託行為で受益者として指定された者 委託者と受益者(双方の合意) |
| 効果 | 当初から受益権がなかったものとみなす(第三者の権利は害さない) | 指定時から受益権を取得(受託者に通知義務) 信託そのものが終了し清算に入る |
他国ではどう定めているか 3 か国
受益者は信託利益を享受する権利を放棄できると定める。受益者の承諾なしの権利取得(同条第1項)と対になる構造は日本と共通
2011年全部改正で受益権の放棄を明文化。受益権取得の規定と組み合わせた構造は日本の新信託法と近い
受益者は信託受益権を放棄できると定め、全受益者が放棄した場合の受益権の帰属順位まで規定している点が日本より具体的
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 父の遺言信託で、仲の悪い兄が受託者、あなたが受益者に指定されていたらどうなるか。兄の管理のもとで毎月わずかな配当を受け取り続ける関係を断ちたいなら、99条の放棄が選択肢になる。遺言は父が一人でする行為なので、あなたは信託行為の当事者ではなく、但書には当たらない
- 母が亡くなって2か月半が過ぎた。相続放棄の熟慮期間(民法915条、知った時から3か月)が迫る中、母の預金を対象にした家族信託があり、あなたが第二受益者になっていることが分かった。家庭裁判所への相続放棄の申述と、受託者への受益権放棄の意思表示。宛先の違う二通を、この数日のうちに用意しなければならない
- あなたは家族信託の受託者を務める長男だ。ある日、妹から「受益者を降ります」という内容証明が届いた。妹の受益権は最初からなかったことになる。配当計算と信託の帳簿を組み直し、残る受益者や残余財産の帰属先にどう影響するかを確かめる作業が、あなたの机に積まれる
- 自分の資産で信託を組み、受益者も自分にした。気が変わっても、99条では降りられない。あなた自身が信託行為の当事者だからだ。
- 受益権を担保に借入れをし、返済が滞って受益権を差し押さえられた。そこで受益権を放棄して差押えを空振りにしようと考えても、2項但書が立ちはだかる。差押債権者の権利は放棄によって消えない
取るべき行動
被害を受けた側:1. 信託契約書または遺言の写しを受託者から取り寄せ、受益者条項と、自分が契約の当事者として署名しているかを確認する2. 方針が決まるまで給付を受け取らず、口座への振込みがあれば記録を残す3. 放棄すると決めたら、「信託法99条に基づき受益権を放棄する」と明記した内容証明郵便を受託者宛てに送る4. 相続放棄とは別の手続であることを前提に、課税関係を税理士に、相続全体の整理を弁護士または司法書士に確認する
訴えられた側:1. 受託者として放棄の意思表示を受け取った日付と文面を保存する2. 放棄者が信託行為の当事者でないかを確認し、当事者であれば但書を根拠に効力を争う3. 既に支払った給付の清算方法を協議し、合意内容を書面に残す4. 残る受益者、予備的受益者、帰属権利者(182条)への影響と、信託目的が達成不能にならないか(163条1号)を検討し、必要に応じて信託の変更(149条)を進める
時効(請求できる期限):本条には放棄の期限の定めがなく、特定の時効もない。ただし受益権が差し押さえられたり担保に入ったりした後は、放棄してもその第三者の権利を害することができない(99条2項但書)。相続が絡む場合は、相続放棄の熟慮期間(民法915条、相続開始を知った時から3か月)と相続税の申告期限(相続税法27条、知った日の翌日から10か月)を並行して意識する必要がある(最新の改正状況をご確認ください)
学説
一般的理解:99条1項但書の「信託行為の当事者」は信託契約の委託者・受託者を指し、委託者兼受益者は放棄できない。遺言信託は委託者の単独行為のため、遺言で指定された受益者は但書に当たらず放棄できると解される
解釈の分かれる論点:放棄前に受領した給付の扱いは明文がなく、遡及効により法律上の原因を欠くとして不当利得返還の対象となるか、その範囲をどう画するかについて見解が分かれている
改正沿革 AI による整理
- 平成18年(2006年)信託法全部改正(平成19年施行) 旧信託法(大正11年法律)には受益権放棄の明文規定がなく、学説で認められていた。新信託法の制定に伴い、受益権の放棄、当事者である受益者の除外、遡及効と第三者保護を明文化した新設条文
改正の年表
- 1.平成18年(2006年) 新設:信託法全部改正(平成18年法律第108号)により新設。旧信託法には受益権放棄の明文規定がなく学説で認められていたものを、当事者除外・遡及効・第三者保護とともに明文化した
- 信託法 第88条受益者の承諾なしの受益権当然取得
- 信託法 第48条受益者への費用請求は合意が必要
- 信託法 第164条当事者である受益者の出口、合意終了
- 信託法 第163条目的達成不能による信託終了事由
- 信託法 第182条残余財産の帰属権利者の定め
- 民法 第939条相続放棄の効果、受益権放棄とは別制度
- 相続税法 第9条の2受益者を信託財産取得者とみなす課税
ログインすると、この条文にメモを残して他の利用者と共有できます。
ログインして共同ノートを始める