信託法 第12条(詐害信託の否認等)
クイックジャンプ
- 破産者が委託者としてした信託における破産法(平成十六年法律第七十五号)第百六十条第一項の規定の適用については、同項各号中「これによって利益を受けた者が、その行為の当時」とあるのは「受益者が現に存する場合においては、当該受益者(当該受益者の中に受益権を譲り受けた者がある場合にあっては、当該受益者及びその前に受益権を譲り渡した全ての者)の全部が信託法第十一条第一項に規定する受益者としての指定を受けたことを知った時(受益権を譲り受けた者にあっては、受益権を譲り受けた時)において」と、「知らなかったときは、この限りでない」とあるのは「知っていたときに限る」とする。
- 2.破産者が破産債権者を害することを知って委託者として信託をした場合には、破産管財人は、受益者を被告として、その受益権を破産財団に返還することを訴えをもって請求することができる。この場合においては、前条第四項ただし書の規定を準用する。
- 3.再生債務者が委託者としてした信託における民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第百二十七条第一項の規定の適用については、同項各号中「これによって利益を受けた者が、その行為の当時」とあるのは「受益者が現に存する場合においては、当該受益者(当該受益者の中に受益権を譲り受けた者がある場合にあっては、当該受益者及びその前に受益権を譲り渡した全ての者)の全部が信託法(平成十八年法律第百八号)第十一条第一項に規定する受益者としての指定を受けたことを知った時(受益権を譲り受けた者にあっては、受益権を譲り受けた時)において」と、「知らなかったときは、この限りでない」とあるのは「知っていたときに限る」とする。
- 4.再生債務者が再生債権者を害することを知って委託者として信託をした場合には、否認権限を有する監督委員又は管財人は、受益者を被告として、その受益権を再生債務者財産(民事再生法第十二条第一項第一号に規定する再生債務者財産をいう。第二十五条第四項において同じ。)に返還することを訴えをもって請求することができる。この場合においては、前条第四項ただし書の規定を準用する。
- 5.前二項の規定は、更生会社(会社更生法(平成十四年法律第百五十四号)第二条第七項に規定する更生会社又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(平成八年法律第九十五号)第百六十九条第七項に規定する更生会社をいう。)又は更生協同組織金融機関(同法第四条第七項に規定する更生協同組織金融機関をいう。)について準用する。この場合において、第三項中「民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第百二十七条第一項」とあるのは「会社更生法(平成十四年法律第百五十四号)第八十六条第一項並びに金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(平成八年法律第九十五号)第五十七条第一項及び第二百二十三条第一項」と、「同項各号」とあるのは「これらの規定」と、前項中「再生債権者」とあるのは「更生債権者又は更生担保権者」と、「否認権限を有する監督委員又は管財人」とあるのは「管財人」と、「再生債務者財産(民事再生法第十二条第一項第一号に規定する再生債務者財産をいう。第二十五条第四項において同じ。)」とあるのは「更生会社財産(会社更生法第二条第十四項に規定する更生会社財産又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第百六十九条第十四項に規定する更生会社財産をいう。)又は更生協同組織金融機関財産(同法第四条第十四項に規定する更生協同組織金融機関財産をいう。)」と読み替えるものとする。
この条文の基本情報
詐害信託の否認等とは何ですか?
定義詐害信託の否認等とは、信託法第12条に定められた規定で、「破産者が委託者としてした信託における破産法(平成十六年法律第七十五号)第百六十条第一項の規定の適用については、同項各号中「これによって利益を受けた者が、その行為…」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 信託法第12条(詐害信託の否認等)は、日本の信託法に含まれる条文です。
- 信託法第12条の条文原文は「破産者が委託者としてした信託における破産法(平成十六年法律第七十五号)第百六十条第一項の規定の適用については、同項各号中「これによって利益を受けた者が、その行為…」で始まります。
- 信託法第12条は第一章 総則に置かれています。
- 信託法の公布日は平成18年12月15日です。
- 信託法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 信託法第12条の前の条は信託法第11条です。
- 信託法第12条の次の条は信託法第13条です。
- 信託法第12条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
信託法(平成十八年法律第百八号)第12条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108 - 本サイト収録
信託法(平成十八年法律第百八号)第12条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/418AC0000000108/12
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点信託法12条は、委託者が破産等した場合における詐害信託の否認の特則。受益者全員が債権者を害すると知っていた場合に限り否認でき、受託者の認識は問わない。
Q · 家族信託をした人が破産したら、管財人は信託財産を取り戻せるの?
受益者全員の悪意を管財人が立証できた場合に限り覆せる
信託法12条1項は、破産法160条1項の詐害行為否認を信託向けに読み替えます。否認が認められるのは、受益者全員が受益者指定を知った時(譲受人は譲受時)に債権者を害することを知っていた場合に限られ、立証責任は管財人側にあります。受託者の認識は要件ではありません。さらに2項により、管財人は悪意の受益者を被告として、受益権を破産財団へ返還するよう個別に請求することもできます。
解説
「信託にしておけば、会社が潰れても家族の財産は守れる」。家族信託のセミナーで、この手の言い回しを耳にしたことがあるかもしれない。たしかに信託財産は、委託者(財産を託す人)の債権者から切り離されるのが原則である(信託法23条)。本条は、その切り離しを破る裂け目にあたる。破産者や再生債務者が、債権者を害すると知りながら信託をした場合、破産管財人は否認権(倒産前の不公平な財産移転を、なかったことにする権限)で信託の設定そのものを覆せる。さらに受益者を被告として、受益権を破産財団へ戻させることもできる。ただし、管財人には重い宿題が課される。否認が認められるのは、受益者の「全員」が、受益者に指定されたと知った時点で、債権者を害することを知っていた場合に限られる。通常の否認では、利益を受けた側が「知らなかった」と証明しなければならない。信託ではこの立証の向きが逆になる。しかも受託者が事情を知っていたかどうかは、判断の軸にならない。信託を組む側なら設計の時点で、債権者側なら受益者の顔ぶれを確かめた時点で、勝負の大半はすでに決まっている
法的な位置づけ
信託法12条は、委託者の倒産手続における詐害信託の否認の特則である。破産法160条1項等の適用に際し、否認の主観的要件を受益者全員の悪意に読み替えて立証責任を管財人側に移し、受託者の認識を要件から外す。あわせて、悪意の受益者に対する受益権の返還請求を認める。
手順
- 1.信託の構造と受益者を特定する 信託契約書や不動産登記簿の信託目録を取り寄せ、委託者・受託者・受益者全員の名前と、受益者指定の時期、受益権の譲渡履歴を一覧にする
- 2.委託者の財務状況と設定時期を照合する 決算書や借入残高の推移から、信託を設定した時点で委託者が債権者を害することを知っていたか(債務超過・資金繰りの悪化)を時系列で整理する
- 3.受益者ごとの認識を示す証拠を確保する 受益者ごとに、指定を知った時点(譲受人は譲受時)における委託者の窮状の認識を示すメール、LINE、議事録、契約締結の場への同席記録を集める。受益者に接触する前に証拠を押さえる
- 4.1項の否認と2項の返還請求を組み合わせて訴えを提起する 受益者全員の悪意を立証できる見込みがあれば1項で信託の設定を否認する。善意の受益者がいる場合は、2項に基づき悪意の受益者を被告として受益権の返還を請求する。否認権の行使期間内に提起する
よくある質問 AI による整理
Q1詐害信託とは何ですか?
委託者が自分の債権者を害すると知りながら設定した信託のことです。平時は信託法11条で取消し、倒産時は12条で否認の対象になります。
Q2家族信託は自己破産で否認されますか?
自動的には否認されません。設定時の委託者の詐害意思に加え、受益者全員の悪意を管財人が立証できた場合に限り、信託法12条1項で否認されます。
Q3信託の否認で受託者の悪意は関係ありますか?
否認の要件にはなりません。信託法12条1項は判断の基準を受益者の認識に置いており、受託者が事情を知っていたかどうかは問われません。
Q4受益者の一人が善意なら信託は守られますか?
1項の否認は止まりますが、2項で悪意の受益者の受益権を個別に返還請求される道が残ります。全体が守られるとは限りません。
Q5信託の否認はいつまでできますか?
破産では破産手続開始の日から2年、行為の日から10年を経過すると否認権を行使できません(破産法176条)。再生・更生にも同様の規定があります。
Q6受益権の返還請求とは何ですか?
信託法12条2項に基づき、管財人が受益者を被告として、受益権そのものを破産財団へ戻すよう訴えで求める制度です。悪意の受益者ごとに行使できます。
Q7民事再生でも信託は否認されますか?
されえます。信託法12条3項・4項が民事再生法127条1項を同じように読み替えており、否認権限を持つ監督委員または管財人が行使します。
Q8受益権を買った第三者も訴えられますか?
被告になりえます。ただし否認には、譲受人が譲受時に悪意だったことに加え、それ以前に受益権を譲り渡した全員の悪意も必要です。
この条文についての質問 AI による整理
Q1家族信託してる親が借金で自己破産したら、信託した実家って取られちゃうんですか?
自動的に取られるわけではない。信託の設定時に親が債権者を害すると知っていたこと、さらに受益者全員がその事情を知っていたことを、管財人が立証できて初めて否認される(信託法12条1項)。実務のポイント:争いの焦点になるのは、信託の設定日と債務超過に陥った時期との距離である。健全な時期の設定であることを示す決算資料を、設定時に保管しておいたかどうかで結論が分かれやすい
Q2受益者の中に一人でも事情を知らない人がいれば、もう絶対に否認されないってこと?
1項の否認についてはそのとおりで、全員の悪意が要件である。ただし2項に基づき、悪意の受益者の受益権を個別に返還させる道は残る。また本条が読み替えるのは破産法160条1項だけであり、無償行為の否認(同条3項)など他の否認類型との関係は解釈問題として残る。実務のポイント:善意者を混ぜた構成そのものが、詐害の意思を推認させる材料になりうる
Q3親に頼まれて受託者になっただけなのに、管財人から訴状が来ました。私が払うんですか?
1項の否認では、受託者は信託設定行為の相手方として被告になりうる。ただし、受託者が事情を知っていたかどうかは否認の要件になっていない(信託法12条1項)。争点は受益者の認識である。実務のポイント:受託者にとっての最大のリスクは、訴訟中に信託財産を動かしてしまうことだ。財産を費消すると、信託法上の受託者責任という別の火種を自分で抱え込むことになる
間違えやすい点 AI による整理
- 「信託した財産は倒産隔離されるから、委託者がその後に破産しても絶対に安全だ」と思われている。だが倒産隔離が守るのは、正当に設定された信託だけである。債権者を害すると知ってした信託は、否認による設定の取消しと、受益権の破産財団への返還請求という二段構えで崩されうる。財産の隠匿と評価されれば、詐欺破産罪(破産法265条)が問題になることもある
- 債権者から見れば、怪しいのは財産を握っている受託者である。ところが法律の照準は受益者に向いている。受託者の悪意をいくら立証しても、受益者側の認識を立証できなければ1項の否認は通らない。追及先を取り違えた訴訟準備は、何か月分もの作業がまるごと空振りになる
- 「受益者に事情を知らない人を入れておけば逃げ切れるのか」という問いの立て方そのものが危うい。1項の否認は止まっても、悪意の受益者の受益権は2項で個別に返還を求められる。そのうえ信託法11条には、債権者を害する目的で善意者を受益者に仕立てる手口に対処する規定も置かれている(適用範囲は条文で要確認)。小細工は、裁判所の目には詐害の意思の証拠として映りやすい
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 適用場面 | 信託法12条:委託者の破産・再生・更生手続 | 信託法11条:平時(倒産手続外) 信託法23条:信託財産への強制執行の制限 |
| 権利を行使する者 | 破産管財人、否認権限を有する監督委員・管財人 | 委託者の債権者 信託財産責任負担債務の債権者に限り執行可 |
| 主観的要件 | 委託者の詐害意思+受益者全員の悪意(管財人が立証) | 委託者の詐害意思+受益者全員の悪意(受託者の悪意は不問) 主観的要件なし(倒産隔離の原則) |
| 受益者個別の追及 | 2項:悪意の受益者に受益権の破産財団への返還を請求 | 4項:悪意の受益者に受益権の委託者への譲渡を請求 なし |
他国ではどう定めているか 3 か国
台湾は信託法で詐害信託の撤銷を定め、破産時は破産管理人が撤銷を申し立てる。受益者全員の悪意を要件とする日本型の特則は置かれていない
韓国も詐害信託の規定を持ち、受益者の善意・悪意を考慮して取消しの可否を調整する点で日本と方向性が近い
米国連邦破産法は、債権者を害する意図で self-settled trust に移転した財産について、一定期間内の移転を管財人が否認できると定める
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 取引先の社長が、会社の倒産半年前に自宅と自社株を家族信託へ移していた。受益者は妻と成人した子二人である。管財人が信託の設定を否認するには、三人全員が受益者指定を知った時点で会社の窮状を知っていたことを立証しなければならない。海外赴任中で何も知らなかった次男が一人いるだけで、1項による否認は止まりうる。そこで管財人は2項に切り替え、事情を知っていた妻と長男の受益権を個別に取り戻しにいく
- あなたは父親に頼まれて受託者になった長男である。父の会社が破産し、管財人から否認の書面が届いた。あなた自身が父の資金繰りを知っていたかどうかは、本条の判断では決め手にならない。争点になるのは受益者の認識だ
- 受益権がすでに知人へ転売されていたら、管財人の請求はどうなる? 1項は、譲受人と、その前に受益権を譲り渡した全員について、譲受時または指定を知った時の悪意を要求する。転売の連鎖のどこかに事情を知らない者が一人でもいれば、否認の道は一気に狭くなる
- 民事再生を申し立てた会社で、監督委員に否認権限が付与された。否認権は再生手続開始の日から2年で行使できなくなる(民事再生法139条)。受益者が当時何を知っていたかを示すメール、LINE、取締役会議事録は、時間が経つほど消えていく。証拠の確保は開始決定の直後から始めないと間に合わない
- 会社更生でも同じ構図になる(5項)。更生管財人が受益者を被告として、受益権を更生会社財産に戻させる
取るべき行動
被害を受けた側:1. 信託契約書と信託登記(不動産なら登記簿の信託目録)で、受益者全員と指定時期を特定する2. 受益者ごとに、指定を知った時点の認識を示す証拠を集める3. 1項による設定の否認と、2項による受益権の返還請求を並行して設計する。善意の受益者が一人いて1項が崩れても、2項で悪意の受益者の持分を狙える4. 破産手続の開始前なら、債権者自身が信託法11条で詐害信託の取消しを検討する
訴えられた側:1. 受益者なら、指定を知った時点(譲受人なら譲受時)を特定し、そのとき委託者の窮状を知らなかったことを示す資料を確保する2. 受託者は信託財産を勝手に動かさず、管理記録を整える3. 1項では管財人側に全員の悪意の立証責任がある。立証の穴を冷静に見極める4. 受益権の一部返還などで和解するコストと、訴訟のコストを比べる
時効(請求できる期限):否認権は、破産手続開始の日から2年、または否認しようとする行為の日から10年を経過すると行使できない(破産法176条)。民事再生は民事再生法139条、会社更生は会社更生法98条に同様の定めがある。本条2項・4項の受益権返還請求に、これらの期間制限がどう及ぶかは条文上明示されておらず、実務上の確認が要る(最新の改正状況をご確認ください)
学説
条文構造からの理解:本条は、通常の詐害行為否認で受益者側が負う善意の立証責任を、管財人側の悪意の立証へと転換する。受託者は信託財産の名義人にすぎず実質的な利益を受けないことから、判断の基準を受益者の認識に置いたものと説明される
改正沿革 AI による整理
- 平成18年(2006年)信託法全部改正 旧信託法の詐害信託取消しの規律を見直し、倒産手続における否認の特則として、受益者の認識を基準とする現行の枠組みが整備された。その後の民法(債権法)改正等に伴う整備の有無と内容は、人的検証を要する
改正の年表
- 1.平成18年(2006年) 新設:信託法の全部改正(平成18年法律第108号)により、委託者の倒産手続における詐害信託の否認の特則として新設された
- 信託法 第11条平時の詐害信託取消し、本条の前提規定
- 信託法 第23条信託財産への強制執行制限、倒産隔離の原則
- 信託法 第25条受託者倒産時の信託財産の非帰属
- 信託法 第3条信託の方法、自己信託を含む設定類型
- 破産法 第160条詐害行為否認の本体、本条が読み替え
- 民事再生法 第127条再生手続の詐害行為否認、3項で読み替え
- 会社更生法 第86条更生手続の詐害行為否認、5項で読み替え
ログインすると、この条文にメモを残して他の利用者と共有できます。
ログインして共同ノートを始める