信託法 第22条(信託財産に属する債権等についての相殺の制限)
クイックジャンプ
- 受託者が固有財産又は他の信託の信託財産(第一号において「固有財産等」という。)に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務(第一号及び第二号において「固有財産等責任負担債務」という。)に係る債権を有する者は、当該債権をもって信託財産に属する債権に係る債務と相殺をすることができない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
- 一当該固有財産等責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該信託財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該信託財産に属する債権が固有財産等に属するものでないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合
- 二当該固有財産等責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該信託財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該固有財産等責任負担債務が信託財産責任負担債務でないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合
- 2.前項本文の規定は、第三十一条第二項各号に掲げる場合において、受託者が前項の相殺を承認したときは、適用しない。
- 3.信託財産責任負担債務(信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負うものに限る。)に係る債権を有する者は、当該債権をもって固有財産に属する債権に係る債務と相殺をすることができない。ただし、当該信託財産責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該固有財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該固有財産に属する債権が信託財産に属するものでないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合は、この限りでない。
- 4.前項本文の規定は、受託者が同項の相殺を承認したときは、適用しない。
この条文の基本情報
信託財産に属する債権等についての相殺の制限とは何ですか?
定義信託財産に属する債権等についての相殺の制限とは、信託法第22条に定められた規定で、「受託者が固有財産又は他の信託の信託財産(第一号において「固有財産等」という。」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 信託法第22条(信託財産に属する債権等についての相殺の制限)は、日本の信託法に含まれる条文です。
- 信託法第22条の条文原文は「受託者が固有財産又は他の信託の信託財産(第一号において「固有財産等」という。」で始まります。
- 信託法第22条は第二章 信託財産等に置かれています。
- 信託法の公布日は平成18年12月15日です。
- 信託法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 信託法第22条の前の条は信託法第21条です。
- 信託法第22条の次の条は信託法第23条です。
- 信託法第22条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
信託法(平成十八年法律第百八号)第22条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108 - 本サイト収録
信託法(平成十八年法律第百八号)第22条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/418AC0000000108/22
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点信託法22条は、受託者個人への債権と信託財産に属する債権に係る債務との相殺を原則禁止する。例外は善意無過失の場合と受託者の承認がある場合に限られる。
Q · 信託の受託者個人に貸したお金を、信託物件の家賃と相殺できる?
原則できない。善意無過失か受託者承認の場合のみ例外
信託法22条1項により、受託者個人(固有財産)にしか請求できない債権で、信託財産に属する債権(家賃など)に係る債務を相殺することは原則として禁止されます。例外は、債権取得時と債務負担時のいずれか遅い時点で信託財産に属することを知らず、かつ過失もなかった場合と、31条2項各号の場合に受託者が相殺を承認した場合(同条2項)です。逆方向の相殺も3項で同様に制限されます。
解説
同じ人間が、法律上は二つの財布を持っている。信託の受託者は、自分個人の財産(固有財産)と、人から預かった信託財産を一人で抱えている。それでも法律はこの二つを、壁で仕切られた別々の金庫として扱う。22条は、その壁に「相殺」(お互いの貸し借りを差し引いて帳消しにすること)という裏口を開けることを原則として禁じる規定だ。受託者個人に貸しがある人は、信託財産に負っている借りとそれを差し引けない(1項)。逆に、信託財産だけを当てにできる債権を持つ人も、受託者個人への借りと差し引けない(3項)。例外は二つしかない。一つは、債権を手に入れた時と債務を負った時の遅いほうの時点で、信託の財産だと知らず、知らなかったことに過失もなかった場合。もう一つは受託者が相殺を承認した場合だが、1項の方向では、さらに31条2項の場面であることが必要になる。家族信託や信託銀行と取引する人が「相手は同じ人だから差し引けばいい」と考えたとき、その相殺通知は法的な効力を持たない可能性が高い。
法的な位置づけ
信託法22条は、受託者の固有財産と信託財産との間の相殺を制限する規定である。固有財産等責任負担債務に係る債権と信託財産に属する債権に係る債務との相殺、および信託財産のみが引当てとなる債務に係る債権と固有財産に属する債権に係る債務との相殺を原則として禁止し、善意無過失または受託者の承認がある場合に例外を認める。
手順
- 1.債権と債務がどちらの財産に属するか仕分ける 契約書・請求書・振込先口座の名義を確認し、自分の債権が受託者個人(固有財産)向けか信託財産向けか、相手方の債権がどちらに属するかを整理する
- 2.基準時点の認識と資料を確認する 債権取得時と債務負担時のいずれか遅い時点を特定し、その時点で「受託者」「信託口」等の表示があったかを確認する。善意無過失を主張するなら、その時点の資料を保存する
- 3.受託者の承認を書面で取得する 例外要件に当たらない場合は受託者の承認を書面で求める。信託財産の債権を消す方向(1項)では、信託行為の定めや受益者の承認など31条2項各号の事由も揃える
- 4.相殺できない場合は別の回収手段に切り替える 要件を満たせないときは相殺を断念し、受託者個人への請求、担保の取得、強制執行の準備など、別の回収ルートを早期に組み立てる
よくある質問 AI による整理
Q1信託法22条とは何ですか?
受託者の固有財産と信託財産をまたぐ相殺を原則として禁じる規定です。信託財産を受託者個人の債務の穴埋めに使わせないための仕組みです。
Q2固有財産等責任負担債務とは?
受託者の固有財産または他の信託の信託財産だけが引当てになる債務のことです。本条1項は、この債務に係る債権での相殺を制限します。
Q3信託財産責任負担債務とは?
信託財産に属する財産で履行する責任を負う債務です(21条)。本条3項は、信託財産のみが引当てとなるものに限って逆方向の相殺を制限します。
Q4信託財産の相殺が認められる例外は?
債権取得時と債務負担時の遅い時点で善意無過失だった場合と、受託者が承認した場合です。1項方向の承認には31条2項各号の事由も必要です。
Q5善意無過失はいつの時点で判断する?
債権を取得した時と、相殺される側の債務を負担した時のいずれか遅い時点で判断します。その後に信託と知っても例外は失われません。
Q6信託法22条に違反した相殺はどうなる?
相殺の効力が生じず、双方の債権債務がそのまま残ります。相殺したつもりの支払いは不履行扱いとなり、遅延損害金などのリスクを負います。
Q7責任財産限定特約付きの債権は相殺できる?
信託財産のみが引当ての債権で、受託者の固有財産に属する債権に係る債務と相殺することは3項で原則禁止です。受託者の承認があれば可能です。
Q8旧信託法の相殺禁止と何が違う?
旧信託法17条は例外を定めずに相殺を禁じていました。現行22条は、善意無過失と受託者承認という2つの例外を明文化しました。
この条文についての質問 AI による整理
Q1家族信託で受託者をやってる息子さんに貸したお金、家賃から引いちゃダメなんですか?
原則としてダメである。家賃債権は信託財産に属し、息子個人への貸金は固有財産だけが引当てになる債務なので、22条1項本文により相殺できない。例外は、取得時と負担時の遅いほうの時点で信託の財産だと知らず、過失もなかった場合に限られる。実務のポイント:家族信託の実務では、入居者に賃料の振込先を「信託口口座」へ変更する通知を出すことが多い。その通知を受け取った後に貸したのなら、善意無過失の主張はほぼ通らない
Q2受託者が「相殺していいよ」って言ってくれたら大丈夫ですよね?
方向によって答えが変わる。信託財産の債権を消す方向(1項)では、受託者の承認に加え、信託行為に定めがある、受益者の承認があるなど、31条2項各号の場面であることが必要になる(22条2項)。受託者個人の債権を消す方向(3項)なら、承認だけで足りる(4項)。実務のポイント:口頭の OK は後で受益者から争われやすい。信託契約書の該当条項の写しと受益者の承認書面を揃えてから相殺通知を出すのが、安全な順番だ
Q3相殺が無効だったら、こっちはどうなるんですか?
相殺の効果が生じないため、家賃などのあなたの債務はそのまま残り、受託者個人への債権も別に残る。家賃は滞納扱いとなり、遅延損害金や賃貸借契約の解除のリスクを負う。実務のポイント:一方の受託者も、無効な相殺を前提に回収を怠って信託財産に損失を出せば、受益者から損失てん補責任(40条)を問われうる。受託者にとっても「黙っていれば済む」問題ではない
間違えやすい点 AI による整理
- あなたから見れば、相手は同じ一人の大家、同じ一つの銀行だ。だが法律から見れば、受託者個人と信託財産は責任の引当てが別々の財産として扱われる。「顔が同じだから差し引ける」という直感と法律との落差が、苦労して書いた相殺通知を効力のない紙切れに変えてしまう
- 「信託だと知らなければ大丈夫」ということは知っていても、その要件に「過失がなかったこと」まで含まれる重さを知らない人が多い。振込先が「信託口」名義になっていた、契約書に「受託者」と書かれていた、それだけで知り得たはずだとして過失を認定されうる。知らなかったと言うだけでは足りない
- 「受託者が OK と言えば相殺できるのか」という問いの立て方そのものが半分ずれている。信託財産の債権を消すほうの相殺(1項)では、受託者の承認に加えて、信託行為に定めがあるか受益者の承認があるなど、31条2項各号のいずれかに当たることが必要だ。受託者一人の承認だけで足りるのは、受託者個人の債権が消える逆方向の相殺(3項、4項)に限られる
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 規律の対象 | 信託法22条:固有財産と信託財産をまたぐ相殺 | 信託法23条:信託財産に対する強制執行等 信託法25条:受託者の破産手続 |
| 保護する対象 | 信託財産(受益者)と固有財産の分別 | 受託者個人の債権者による信託財産への差押えを制限 信託財産は受託者の破産財団に属しない |
| 例外・救済 | 遅い時点での善意無過失、受託者の承認(1項方向は31条2項各号も必要) | 信託財産責任負担債務に係る債権であれば強制執行可 信託財産責任負担債務の債権者は信託財産から回収 |
他国ではどう定めているか 4 か国
信託財産に属する債権と信託財産に属しない債務の相殺を禁止する。日本旧信託法17条と同じく簡潔な禁止規定の形をとる。
2011年の全部改正で相殺禁止を整備。信託財産と固有財産を分別する考え方は日本と共通する。
信託財産の管理運用等から生じた債権と、受託者の固有財産から生じた債務との相殺を禁止する。
信託財産は受託者個人の債権者の請求の引当てにならないとする。相殺制限は信託財産分別の一般原則から導かれる。
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 家族信託で父のアパートを管理している長男に、入居者のあなたが以前50万円を個人的に貸していたとしたら、家賃と相殺できるのか? 家賃債権は信託財産に属するので、原則としてできない(22条1項)。家賃の振込先を信託口口座に切り替える通知を受け取っていれば、「知らなかった」という言い分もまず通らない
- あなたは受託者として、亡き母が設定した信託の商業ビルを管理している。テナント企業から「あなたの個人事業への売掛金と、今月の賃料を相殺しておきます」と通知が来た。黙って受け入れれば、信託財産の賃料収入があなた個人の借金の穴埋めに消える。受益者である弟から損失てん補(40条)を求められる入口になる
- 信託銀行の信託勘定から事業資金を借り、同じ銀行の銀行勘定に定期預金もある。返済が苦しい月に、預金と相殺したくなる。だが勘定が違えば、原則として相殺は認められない。
- 受託者が経営する会社が傾き、受託者個人の破産申立ても近いと噂されている。手続が始まるまで数週間かもしれない。あなたの手元にあるのは受託者個人への債権と、信託物件への未払賃料。相殺で回収するつもりだったなら、その計画は22条で封じられている。しかも信託財産は受託者の破産財団に入らない(25条1項)。今週中に別の回収手段を組み直す必要がある
- 不動産ファンドの信託受託者との取引で、代金の支払いは信託財産だけを引当てにするという特約(責任財産限定特約)付きだった。あなたの会社は同じ信託銀行から銀行勘定で融資も受けている。信託側の代金が払われないからといって、融資の返済額と差し引くことは22条3項で原則として禁じられる
取るべき行動
被害を受けた側:1. 相殺通知が届いたら、相手の債権が受託者個人に向けたものか、信託財産に向けたものかを、契約書や請求書の名義で仕分ける2. 信託財産の債権を消す方向なら、22条1項本文に違反するとして、相殺の効力を争う旨の書面を返す3. 相手が善意無過失を主張してくる場合に備え、信託口口座への変更通知や契約書の受託者表示を証拠として保存する4. 受益者の立場なら、受託者が漫然と相殺に応じていないかを確認し、必要に応じて40条の損失てん補請求を検討する
訴えられた側:1. 相殺する前に、自分の債権と債務がそれぞれ固有財産側と信託財産側のどちらにあるかを確認する2. 両側にまたがっているなら、取得時と負担時の遅いほうの時点で、信託だと知らず過失もなかったことを示す資料を集める3. 資料が足りなければ受託者の承認を書面で取る。1項方向なら、受益者の承認など31条2項各号の事由もあわせて揃える4. それも難しければ相殺はあきらめ、受託者個人への請求や担保の設定で回収を組み直す
時効(請求できる期限):特定の時効はないが、一般消滅時効(民法166条、債権5年または10年)が適用される。相殺の可否は、債権を取得した時と債務を負担した時のいずれか遅い時点での善意無過失によって判断されるため、その時点の記録を保存しておくことが実質的な期限管理になる
学説
通説:本条は信託財産の独立性を相殺の場面で具体化した規定であり、受託者個人の債権者による実質的な信託財産の流用を防ぐ。一方で、現行法は善意無過失の取引相手を保護する例外を設け、旧法の絶対的禁止を緩和したと理解されている。
改正沿革 AI による整理
- 平成18年(2006年)信託法全部改正(平成19年(2007年)9月30日施行) 例外を認めずに相殺を禁止していた旧信託法17条の規律を引き継ぎつつ、取引相手の善意無過失による例外と受託者の承認による例外を明文化し、現行22条として整備した。その後の改正の有無は要確認
改正の年表
- 1.大正11年(1922年) 新設:旧信託法17条で、信託財産に属する債権と信託財産に属しない債務との相殺を、例外を設けずに禁止した。
- 2.平成18年(2006年) 改正:信託法全部改正(平成18年法律第108号、平成19年9月30日施行)により現行22条として整備。善意無過失の例外と受託者の承認による例外を明文化した。
- 信託法 第21条信託財産責任負担債務の範囲を画定
- 信託法 第23条信託財産への強制執行等の制限
- 信託法 第25条受託者破産時の信託財産の独立性
- 信託法 第31条利益相反行為の制限、2項が承認相殺の前提
- 信託法 第40条受託者の損失てん補責任
- 民法 第505条相殺の一般要件、本条はその特則
- 民法 第511条差押えと相殺の一般規律
ログインすると、この条文にメモを残して他の利用者と共有できます。
ログインして共同ノートを始める