信託法 第31条(利益相反行為の制限)
クイックジャンプ
- 受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。
- 一信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属させること。
- 二信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に帰属させること。
- 三第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人となって行うもの
- 四信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの
- 2.前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項各号に掲げる行為をすることができる。ただし、第二号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為をすることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。
- 一信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。
- 二受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。
- 三相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。
- 四受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき。
- 3.受託者は、第一項各号に掲げる行為をしたときは、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
- 4.第一項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされた場合には、これらの行為は、無効とする。
- 5.前項の行為は、受益者の追認により、当該行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。
- 6.第四項に規定する場合において、受託者が第三者との間において第一項第一号又は第二号の財産について処分その他の行為をしたときは、当該第三者が同項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされたことを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該処分その他の行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。
- 7.第一項及び第二項の規定に違反して第一項第三号又は第四号に掲げる行為がされた場合には、当該第三者がこれを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。
この条文の基本情報
利益相反行為の制限とは何ですか?
定義利益相反行為の制限とは、信託法第31条に定められた規定で、「受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 信託法第31条(利益相反行為の制限)は、日本の信託法に含まれる条文です。
- 信託法第31条の条文原文は「受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。」で始まります。
- 信託法第31条は第二節 受託者の義務等に置かれています。
- 信託法の公布日は平成18年12月15日です。
- 信託法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 信託法第31条の前の条は信託法第30条です。
- 信託法第31条の次の条は信託法第32条です。
- 信託法第31条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
信託法(平成十八年法律第百八号)第31条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108 - 本サイト収録
信託法(平成十八年法律第百八号)第31条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/418AC0000000108/31
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点信託法31条は、受託者が信託財産を自分の財産にする等の利益相反行為を原則禁止する。信託行為の許容や受益者の承認があれば例外的に許され、違反の1号・2号行為は無効となる。
Q · 信託で預かった親の家を、受託者の子が自分で買い取ってもいいの?
原則無効。許容条項か受益者の承認等が必要
信託法31条1項1号は、受託者が信託財産を自分の財産(固有財産)にすることを禁じています。相場どおりの価格でも形式的に該当すれば原則禁止で、違反すれば取引は無効です(同条4項)。適法にするには、信託契約に許容条項を置くか、重要な事実を開示して受益者の承認を得る必要があります(同条2項)。受益者が認知症で承認できない場合は、受益者代理人の利用や「正当な理由」(2項4号)の主張が残る道です。
解説
家族信託が広まる一方で、契約書に一文が欠けていたために、子が親の家を自分で買い取れなくなる事態が起きている。信託法31条は、財産を預かった側(受託者)が、自分と利益がぶつかる取引をすることを原則として禁じる条文である。禁止される取引は四つある。信託財産を自分の財産にすること(またはその逆)、別の信託へ移すこと、取引相手の代理人を兼ねること、自分の借金の担保に信託財産を差し出すことである。前の二つに違反した取引は「無効」となる。つまり、最初から効力が生じない。例外として許される道は四つある。最も確実なのは、信託契約に「この取引は許す」と書いておくことだ。次は、重要な事実を開示したうえで受益者(信託の利益を受ける人)の承認を得る方法である。ただし、受益者である親が認知症になれば、この承認はもう取れない。何を許し、何を禁じるかは、契約書を作るその日にしか決められない。
法的な位置づけ
信託法31条は、受託者の忠実義務(同法30条)を具体化し、信託財産と固有財産との間の取引、他の信託財産への帰属、第三者の代理人を兼ねる行為、受益者と利益が相反する担保設定等の利益相反行為を原則として禁止する規定である。信託行為の定め、受益者の承認、包括承継、正当な理由のいずれかに該当する場合に限り例外的に許容される。
手順
- 1.信託契約書の許容条項を確認する 受託者が信託財産を取得・賃借・担保利用する予定があるなら、まず信託契約書に31条2項1号の許容条項があるかを確認する。不動産なら登記事項証明書の信託目録もあわせて確認する
- 2.許容条項がなければ重要事実を開示して承認を得る 不動産鑑定書、価格の根拠、他の買い手候補の有無などの重要事実を書面で受益者に開示し、承認を書面で取得する。受益者の判断能力に不安がある場合は受益者代理人(139条)の有無を確認する
- 3.取引後に受益者へ通知する 31条3項に基づき、実施した取引の重要な事実を受益者に書面で通知し、控えと送付記録を保管する。帳簿にも取引内容と根拠を記録する
- 4.違反が疑われたら期限内に取消し・無効を主張する 受益者側は帳簿閲覧(38条)や状況報告(36条)を求め、1号・2号なら無効、第三者への処分や3号・4号なら取消しを主張する。取消権は知った時から3か月で消えるため内容証明郵便で早めに意思表示する
よくある質問 AI による整理
Q1信託法31条の利益相反行為とは?
受託者と受益者の利益がぶつかる取引のことです。信託財産と自分の財産の取引、別信託への移転、相手方代理の兼任、自己債務のための担保設定などの4類型が定められています。
Q2受託者の自己取引が許される条件は?
信託行為の許容条項、重要事実を開示したうえでの受益者の承認、相続等の包括承継、信託目的に照らした正当な理由のいずれかに当たる場合に限り許されます(31条2項)。
Q3家族信託 受託者 自己取引 無効になる?
信託財産を固有財産に帰属させる取引(1号)や他の信託に移す取引(2号)を例外なく行えば無効です。ただし受益者が追認すれば、行為の時にさかのぼって有効になります。
Q4受託者が信託財産に抵当権を付けるのは違法?
受託者個人の借金を担保するため信託財産に担保権を設定することは4号の典型例で禁止されます。銀行が悪意・重過失なら受益者は取消しができます(31条7項)。
Q5利益相反行為をしたら受益者に通知は必要?
必要です。例外に当たり適法に行った場合でも、受託者は行為についての重要な事実を受益者に通知しなければなりません(31条3項)。信託行為で別の定めも可能です。
Q6受益者の承認は口頭でもいい?
条文上は書面を要件としていませんが、重要事実の開示と承認の事実を後から証明できるよう、開示資料と承認書を書面で残すのが実務の基本です。
Q7信託法31条違反の取消しはいつまでできる?
27条4項の準用により、受益者が取消しの原因を知った時から3か月、行為の時から1年で取消権は消滅します。無効の主張自体に期間制限はありません。
Q8信託契約で受益者承認を禁止できる?
できます。31条2項ただし書により、信託行為で「承認があっても当該行為はできない」と定めれば、受益者の承認という例外は使えなくなります。
この条文についての質問 AI による整理
Q1親の家を信託で預かってるんだけど、自分が借りて住むのもダメなの?
受託者自身が信託不動産を借りる形は、財産に係る権利を自分の財産に帰属させる行為として、31条1項1号に当たりうる。信託契約に許容条項があるか、受益者の承認があれば適法にできる。実務のポイント:同居や賃借の予定があるなら、契約書案の段階で「受託者による使用・賃借を許容する」と入れておくのが実務の定石である。後から条項を足そうとすると、信託の変更の壁にぶつかる
Q2受託者が勝手に売った家を、買った人から取り戻せますか?
受託者がいったん自分の名義にした後で転売した場合、受益者が転売を取り消せるのは、買主が違反を知っていたか、知らないことに重大な過失があった場合に限られる(31条6項)。実務のポイント:信託した不動産は登記簿の信託目録に信託であることが記録される。目録を確認しなかった買主について重過失を主張する余地があるかどうかは、実務上、事案ごとの判断になる
Q3母が認知症になったら、承認ってもう取れないんですか?
本人による有効な承認は難しくなる。ただし受益者代理人がいれば、受益者に代わって権利を行使できる(139条)。また2項4号の「正当な理由」による例外も残っている。実務のポイント:受益者代理人は信託行為で指定しておく必要があるため、組成時に条項を入れておかないと後から置くのが難しい。成年後見人を付けると、家族信託を選んだ意味が薄れることもある
間違えやすい点 AI による整理
- 家族の目には「親の家を子が買うだけ」に映る。しかし法律の目には、売主側を管理する者と買主が同一人物という、最も警戒すべき取引に映る。親子の情愛があっても、利益相反の評価は一切緩まない。この見え方の落差が、善意で動いた受託者を「無効な取引をした人」に変えてしまう
- 「相場どおりの価格なら問題ないでしょう?」という問いは、前提がずれている。1項1号・2号の禁止は、価格が公正かどうかを問わない。形式的に当てはまれば原則として禁止される。公正な価格は、2項4号の「正当な理由」を判断するための一事情にすぎない
- 受益者の承認があれば例外になる、ということはよく知られている。だが承認が効力を持つには「重要な事実の開示」が前提となる。価格の根拠や他の買い手候補の有無を伏せたまま得た承認は、後から争われうる。さらに信託行為で承認による例外を封じていれば(2項ただし書)、承認という手段そのものが使えない
- 違反しても受託者がお金で弁償すれば済む、と考えられがちだが、1号・2号の違反は取引そのものが無効になる(4項)。受益者が追認しない限り、名義の移転も巻き戻しの対象になる
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 規律の性質 | 信託法31条:利益相反行為の4類型を形式的に禁止 | 信託法30条:受益者のため忠実に事務処理する一般的義務 信託法32条:受託者が自己の計算で行う競合行為の制限 |
| 典型場面 | 信託不動産を受託者が自分で買う、自己債務の担保に差し出す | 類型に当てはまらない不誠実な事務処理全般 信託財産で買うべき物件を受託者個人が先に買う |
| 違反の効果 | 1号・2号は無効(追認可)、3号・4号は悪意・重過失の第三者に取消し | 損失てん補責任(40条)等の責任追及 受益者は当該行為を信託財産のためにされたものとみなすことができる(介入権) |
| 例外 | 許容条項・受益者承認・包括承継・正当な理由 | 条文上の類型的例外なし 許容条項・受益者承認(31条に類似) |
他国ではどう定めているか 4 か国
受託者が信託財産を自己財産に転換し、またはその上に権利を設定・取得することを原則禁止し、受益者の書面同意等の例外を置く。日本の旧信託法の影響を受けた構造
2011年の全部改正で利益相反行為の類型と例外を整理。日本の2006年改正と同様に許容条項・受益者承認を例外とする
固有財産と信託財産の取引、異なる委託者の信託財産間の取引を禁止し、信託文書の定めや委託者・受益者の同意かつ公正な市場価格での取引を例外とする
自己取引は原則として受益者が取り消しうるとし、信託条項による許容、受益者の同意、裁判所の承認などを例外とする。英米法の忠実義務の伝統に立つ
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 父の自宅を信託で預かった長男が、施設費用をつくるため自宅を売りに出した。買い手がなかなか現れず、長男は「相場の値段で自分が買えばいい」と考える。しかし信託契約に許容条項がなく、父は認知症で承認もできない。この買取りは31条1項1号の自己取引にあたり、2項4号の「正当な理由」が認められない限り無効になる
- 受託者であるあなたが、個人の事業資金を借りるため、信託した実家に抵当権を付けようとしている。銀行の担当者はあっさり了承した。だがこれは4号の典型的な利益相反行為である。銀行が事情を知っていた、または知らないことに重大な過失があった場合、受益者はこの担保設定を取り消せる(7項)
- 姉が受託者として母の預金を管理している。その姉が、信託口座から自分の口座へ「立替金の精算」として300万円を移していたら、どうなるのか? 受託者は信託事務の費用を信託財産から償還してもらえる(48条)。それでも、実額と根拠を示せない移動は1号の禁止に触れる疑いが濃くなる
- 受託者が、信託不動産の買主側の代理人も兼ねて売買契約を結んだ。双方代理と同じ構造であり、3号の禁止に正面から当たる
- 兄が信託不動産をいったん自分の名義にし、それを知人に転売していたことを今日知った。知人が事情を知っていた、または重過失があったなら転売を取り消せる。ただしその権利は、知った時から3か月、転売から1年で消える(31条6項、27条4項準用)。カレンダーの残り日数を数えて、今週中に証拠集めと内容証明の準備を始める必要がある
取るべき行動
被害を受けた側:1. 信託契約書を確認する。不動産なら登記事項証明書と信託目録も取り寄せ、許容条項の有無を確かめる2. 受託者に帳簿の閲覧(38条)と状況報告(36条)を求める3. 1号・2号の違反なら取引の無効を主張する。転売先がある場合は、相手が事情を知っていたことを示す証拠を集める4. 損失てん補の請求(40条)では同条3項の推定を使い、金額の立証負担を相手へ寄せる
訴えられた側:1. 取引の前に信託行為の許容条項を確認する。なければ鑑定書・価格の根拠・他の買い手候補を書面で開示し、受益者の承認を書面で得る2. 受益者の判断能力に不安があれば、受益者代理人(139条)の選任を検討する3. 取引の後は3項に基づく通知を書面で行い、控えを保管する4. 違反を指摘されたら、受益者の追認(5項)で遡って有効にできないかを探る
時効(請求できる期限):第三者との処分や取引の取消権(6項・7項)は、27条4項の準用により、受益者(信託管理人がいる場合はその者)が取消しの原因を知った時から3か月、行為の時から1年で消える。1号・2号違反による無効の主張そのものには期間制限がない。損失てん補の請求は一般消滅時効(民法166条、5年または10年)が基本で、信託法43条に起算点などの特則がある(最新の改正状況をご確認ください)
学説
通説:31条1項各号は忠実義務(30条)の典型類型を形式的に禁止したもので、取引条件の公正さは禁止の成否に影響しない。公正な価格や信託目的との適合性は、2項4号の正当な理由の判断要素として考慮されるにとどまる
改正沿革 AI による整理
- 平成18年(2006年)信託法全部改正 旧信託法22条の受託者による信託財産取得の禁止を拡張した。利益相反行為の類型、例外、効果(無効・取消し)を体系化した条文として新たに置かれ、平成19年(2007年)9月30日に施行された。その後の改正の有無は人的検証が必要
改正の年表
- 1.大正11年(1922年) 新設:旧信託法制定。旧22条で受託者が信託財産を固有財産とすること等を原則として禁止した
- 2.平成18年(2006年) 改正:信託法全部改正(平成18年法律第108号)。利益相反行為の4類型、4つの例外、無効・取消しの効果を体系化した現行31条を新設。平成19年(2007年)9月30日施行
- 信託法 第30条忠実義務の一般規定、本条はその具体化
- 信託法 第32条競合行為の制限、利益相反の並列類型
- 信託法 第40条損失てん補責任と利益額の損失推定
- 信託法 第27条権限違反行為の取消し、3項4項を準用
- 信託法 第139条受益者代理人による受益者の権利行使
- 信託業法 第29条信託会社の利益相反取引への上乗せ規制
- 民法 第108条自己契約・双方代理の一般則
ログインすると、この条文にメモを残して他の利用者と共有できます。
ログインして共同ノートを始める