信託法 第44条(受益者による受託者の行為の差止め)
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- 受託者が法令若しくは信託行為の定めに違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、受益者は、当該受託者に対し、当該行為をやめることを請求することができる。
- 2.受託者が第三十三条の規定に違反する行為をし、又はこれをするおそれがある場合において、当該行為によって一部の受益者に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該受益者は、当該受託者に対し、当該行為をやめることを請求することができる。
この条文の基本情報
受益者による受託者の行為の差止めとは何ですか?
定義受益者による受託者の行為の差止めとは、信託法第44条に定められた規定で、「受託者が法令若しくは信託行為の定めに違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあると…」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 信託法第44条(受益者による受託者の行為の差止め)は、日本の信託法に含まれる条文です。
- 信託法第44条の条文原文は「受託者が法令若しくは信託行為の定めに違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあると…」で始まります。
- 信託法第44条は第三節 受託者の責任等に置かれています。
- 信託法の公布日は平成18年12月15日です。
- 信託法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 信託法第44条の前の条は信託法第43条です。
- 信託法第44条の次の条は信託法第45条です。
- 信託法第44条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
信託法(平成十八年法律第百八号)第44条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108 - 本サイト収録
信託法(平成十八年法律第百八号)第44条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/418AC0000000108/44
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点信託法44条は、受託者が法令や信託行為に違反し信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるとき、受益者がその行為の差止めを請求できると定める。損害の発生前でも請求できる。
Q · 家族信託の受託者が契約違反のことをしようとしていたら、事前に止められるの?
受益者は損害が出る前に差止めを請求できる
信託法44条1項により、受託者が法令や信託行為の定めに違反する行為をし、またはそのおそれがあり、信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、受益者はその行為をやめるよう請求できます。損害の発生を待つ必要はありません。2項は、一部の受益者だけを不利に扱う公平義務(33条)違反も差止めの対象とします。この権利は信託行為で制限できません(92条)。差し迫った場面では、民事保全法の仮処分と組み合わせて使われます。
解説
家族信託で親の実家と預金を託された長男が、契約で禁じられているのに実家の売却話を進めている。あなたが受益者(信託から利益を受ける立場の人)の一人なら、「売るな」と正面から止める権利が法律に書かれている。それが信託法44条である。受託者(財産を預かって管理する人)が法令や信託契約に違反した場合、あるいは違反しそうな場合で、信託財産に「著しい損害」が出るおそれがあれば、受益者はその行為をやめるよう請求できる。要は「おそれ」で足りることだ。損害が出るのを待つ必要はない。2項はさらに、受益者が複数いる信託で、受託者が一部の受益者だけを優遇する公平義務違反(33条)も止められると定める。この権利は信託契約でも奪えない(92条)。損害が出た後に賠償を追いかける(40条)より、出る前に止めるほうが、お金も時間も兄弟関係も守れる。
法的な位置づけ
受託者行為の差止請求権とは、受託者が法令もしくは信託行為の定めに違反する行為をし、またはそのおそれがある場合において、信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるとき、受益者が受託者に対し当該行為の停止を求めることができる権利をいう。信託法44条に規定され、信託行為による制限は禁止される(同法92条)。
手順
- 1.違反の証拠を集める 信託契約書(信託行為)の該当条項、信託口口座の通帳の写し、不動産業者や金融機関とのやり取りなど、受託者の違反行為またはそのおそれを示す資料を集める
- 2.報告請求と帳簿閲覧で事実を確定する 受託者に対し、信託事務の処理状況の報告(36条)と帳簿等の閲覧(38条)を書面で請求し、違反の有無と損害の規模を確定させる
- 3.内容証明で差止めを請求する 信託法44条に基づき、対象行為を特定したうえで中止を求める書面を内容証明郵便で受託者に送付する。違反の根拠条項と著しい損害のおそれを具体的に記載する
- 4.差し迫っていれば仮処分を申し立てる 売却や担保設定の期日が迫っている場合、差止請求権を被保全権利として、民事保全法23条2項の仮処分を弁護士と検討する。裁判所から担保金の提供を求められる点に備える
よくある質問 AI による整理
Q1信託法44条の差止請求とは何ですか?
受託者が法令や信託契約に違反する行為をし、またはしそうなとき、信託財産に著しい損害が出るおそれがあれば、受益者がその行為をやめるよう求められる権利です。
Q2「著しい損害のおそれ」とはどの程度ですか?
帳簿の付け方が雑という程度の軽微な違反では足りません。信託財産の価値が大きく損なわれる具体的なおそれを、資料で示す必要があります。
Q3信託の差止請求ができるのは誰ですか?
1項は受益者、2項は著しい損害を受けるおそれのある一部の受益者です。信託監督人や受益者代理人が置かれていれば、受益者のために行使できます。
Q4受益者が認知症なら差止めはどうなる?
本人による請求は難しくなります。信託監督人・受益者代理人が置かれていればその者が、いなければ成年後見人等が受益者を代理して行使することになります。
Q5委託者は受託者の行為を差し止められますか?
44条の請求権者は受益者です。ただし信託行為で委託者に一定の権利を与える定め(145条)を置ける場合があるので、信託契約書の条項を確認してください。
Q6差止請求はいつまでにすべきですか?
差止請求自体に時効はありませんが、行為が完了すると止める対象がなくなります。売却や担保設定なら、決済・登記の前が事実上の期限です。
Q7差止請求は裁判をしないとできませんか?
裁判外でも請求できます。内容証明郵便で中止を求めるのが一般的で、受託者が応じなければ訴訟や仮処分の申立てに進みます。
Q8信託の公平義務違反とは何ですか?
受益者が複数いるとき、受託者は公平に職務を行う義務を負います(33条)。特定の受益者だけを優遇する給付は違反となり、2項で差止めの対象になります。
この条文についての質問 AI による整理
Q1兄が受託者なんですが、親の信託口口座のお金を勝手に使ってるみたいなんです。止められますか?
受益者であれば44条1項で止められる。信託口口座の資金を受託者自身の用途に回すのは、忠実義務(30条)と分別管理義務(34条)違反の典型例である。まずは帳簿閲覧(38条)で事実を確定させる。実務のポイント:受益者である親が認知症の場合、本人による請求は難しい。信託監督人や受益者代理人が置かれていなければ、実務上ブレーキ役が誰もいない状態になる
Q2信託契約に「受益者は受託者の判断に異議を述べない」って書いてあったら、もう何もできませんか?
できる。44条の差止請求権は、信託行為(信託契約)で制限することが禁止されている権利の一つである(92条)。実務のポイント:契約で差止めの権利そのものは消せないが、受託者の裁量を広く認める条項があれば、その範囲内の行為はそもそも「違反」にならない。勝負は差止めの段階ではなく、契約条項の書き方の段階でついている
Q3差止めの裁判をしたら、弁護士費用は全部こっち持ちですか?
必ずしもそうではない。44条の請求に関する訴えで勝訴(一部勝訴を含む)すれば、必要な費用や弁護士報酬のうち相当額を信託財産から支払うよう求められる(45条)。実務のポイント:急ぐ場面で使われるのは仮処分だが、仮処分では裁判所から担保金(保証金)の提供を求められる(民事保全法14条)。この資金を別に用意しておかないと、手続が止まる
間違えやすい点 AI による整理
- 「受託者は家族だから、多少お金を流用しても家庭内の問題」と思われがちだが、信託財産は受託者自身の財産とは法的に切り離されている。家族であっても、信託契約に違反すれば受益者は法的手段で止められる。「身内だから口を出しにくい」というのは感情の問題であって、法律上の制約ではない
- 差止めできること自体は知っていても、「著しい損害のおそれ」という要件の重さを軽く見ている人が多い。帳簿の付け方が少し雑、という程度の違反では足りない。監査役設置会社の株主による差止め(会社法360条3項)が求める「回復することができない損害」ほど厳しくはないが、損害の規模を示す資料を用意しなければ、裁判所は動かない
- 「受託者を誰が止めるか」と考えるのは問いの立て方がずれている。本当の問題は、止める権利を持つ人に判断能力が残っているかどうかだ。家族信託では受益者が認知症の親であることが多く、権利があっても行使できない。信託監督人(131条以下)を最初から置いておかなければ、この条文は絵に描いた餅になる
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 使う時点 | 信託法44条:違反行為の前または継続中(損害発生前) | 信託法27条:権限外の行為がされた後 信託法40条:損失が発生した後 |
| 効果 | 受託者に行為の停止を求める | 受託者と第三者の行為を取り消す 受託者に損失てん補・原状回復を求める |
| 主な要件 | 法令・信託行為違反(またはそのおそれ)+信託財産に著しい損害のおそれ | 権限外の行為+相手方の悪意または重過失 任務懈怠+信託財産の損失・変更 |
| 期限 | 明文の時効なし、ただし行為完了で対象消滅 | 取消原因を知った時から3か月、行為時から1年 消滅時効による(43条に特則) |
他国ではどう定めているか 4 か国
台湾では信託本旨に違反する処分の取消しと、損害賠償・原状回復請求が中心で、日本の44条のような事前差止の明文規定はない。差し迫った場面では民事訴訟法の仮処分で対応することになる
2011年の全面改正で受託者に対する差止請求権(유지청구권)が導入され、日本の44条と同様の事前救済の仕組みを持つ
違反処分の取消しと原状回復・賠償が中心で、受益者による事前差止の明文規定はない
米国では信託違反に対する救済の一つとして、裁判所が受託者の違反行為を差し止めることができる(エクイティ上の injunction)
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 認知症の父の受託者になった兄が、信託口口座のお金を自分の会社の運転資金に回し始めたら、どうなる? 受益者である父には差止めの権利がある。しかし父が判断能力を失っていれば、自分で行使するのは難しい。信託監督人や受益者代理人が置かれているかどうかで、止められるかどうかが決まる
- あなたは親から賃貸アパートを託された受託者である。修繕費を浮かせようと、信託契約で決められた管理会社を、勝手に知人の業者へ切り替えた。受益者の妹から内容証明で中止を求められたとき、「良かれと思って」は通用しない。信託行為の定めに違反した時点で、44条が問題になる状況に入っている
- 受託者が来週金曜に信託不動産の売買契約を結ぶと聞いた。残りは8日。通常の訴訟では到底間に合わない。差止請求権を被保全権利(仮処分で守ろうとする権利)として仮処分を申し立てるかどうか、今週中に弁護士と決める必要がある
- 受益者は二人。受託者と同居する長女には毎月多めに給付し、遠方に住む次男には最低額しか出さない。信託契約が定める配分ルールを外れたこの偏りが続くなら、次男は公平義務(33条)違反を理由に、2項で差止めを求められる
- 契約書に書かれていない担保設定の書類に、兄が判を押そうとしている。登記される前なら、まだ止められる。
取るべき行動
被害を受けた側:1. 証拠を固める:信託契約書の該当条項、信託口口座の通帳の写し、業者とのやり取り2. 報告請求(36条)と帳簿閲覧請求(38条)を書面で出し、違反の有無を確定させる3. 内容証明で44条に基づく中止を請求する4. 売却や担保設定が目前に迫っているなら、仮処分(民事保全法23条2項)を弁護士と検討する5. 損害がすでに出ている場合は、損失てん補(40条)と解任申立て(58条4項)に切り替える
訴えられた側:1. 指摘された行為はいったん止め、信託契約書と照らし合わせる。違反していないなら、根拠となる条項を書面で示す2. 信託財産のためになる行為だと考えるなら、先に信託の変更(149条)で関係者の合意を取ってから動く3. 自分の財産との混同があれば、すぐに分別する(34条) 4. 放置すると解任(58条)や損失てん補(40条)に発展するので、早めに説明の場を設ける
時効(請求できる期限):差止請求そのものに特定の時効はない。ただし行為が完了すると差止めの対象がなくなるため、事実上の期限は「行為が実行される前」である。完了後は、27条の取消権(取消しの原因を知った時から3か月、行為の時から1年)か、40条の損失てん補請求(一般消滅時効、民法166条。信託法43条に特則あり)に移る(最新の改正状況をご確認ください)
学説
通説:44条の差止めは、受託者の裁量の範囲内の行為には及ばず、法令または信託行為に違反する行為に限られる。さらに「著しい損害のおそれ」を要件とすることで、受託者の機動的な財産管理と受益者保護の均衡を図っている
会社法との比較:監査役設置会社の株主による取締役の行為の差止め(会社法360条3項)が「回復することができない損害」を要するのに対し、本条は「著しい損害」で足り、要件はそれより緩やかと整理される
改正沿革 AI による整理
- 平成18年(2006年)信託法全部改正(平成19年(2007年)施行) 旧信託法(大正11年法)には受益者による一般的な差止請求権の規定がなかった。新信託法で本条が新設され、法令・信託行為違反の差止め(1項)と、公平義務違反の差止め(2項)が明文化された
改正の年表
- 1.平成18年(2006年) 新設:信託法全部改正(平成19年(2007年)施行)により新設。旧信託法(大正11年法)にはなかった受益者による一般的な差止請求権を、法令・信託行為違反(1項)と公平義務違反(2項)の二類型で明文化した
- 信託法 第33条公平義務、2項の差止めの前提
- 信託法 第27条権限違反行為の事後的取消し
- 信託法 第40条任務懈怠による損失てん補責任
- 信託法 第45条差止訴訟の費用を信託財産から支弁
- 信託法 第92条信託行為による差止権制限の禁止
- 信託業法 第28条信託会社の忠実義務等の業法規制
- 民事保全法 第23条仮処分による差止めの緊急実現
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