信託法 第8条(受託者の利益享受の禁止)
クイックジャンプ
受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない。
この条文の基本情報
受託者の利益享受の禁止とは何ですか?
定義受託者の利益享受の禁止とは、信託法第8条に定められた規定で、「受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない。」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 信託法第8条(受託者の利益享受の禁止)は、日本の信託法に含まれる条文です。
- 信託法第8条の条文原文は「受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない。」で始まります。
- 信託法第8条は第一章 総則に置かれています。
- 信託法の公布日は平成18年12月15日です。
- 信託法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 信託法第8条の前の条は信託法第7条です。
- 信託法第8条の次の条は信託法第9条です。
- 信託法第8条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
信託法(平成十八年法律第百八号)第8条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108 - 本サイト収録
信託法(平成十八年法律第百八号)第8条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/418AC0000000108/8
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点信託法8条は、受託者は受益者として享受する場合を除き、誰の名義であっても信託の利益を享受できないと定める。報酬は別途54条で扱われる。
Q · 家族信託の受託者は、信託した実家に住んだり財産を使ったりできる?
受益者でない限り、原則として使えない
信託法8条により、受託者は受益者として享受する場合を除き、自分の名義でも家族や会社の名義でも信託の利益を受け取れません。受益者でない受託者が実家に無償で住めば、賃料相当額について損失てん補(40条)を求められる可能性があります。取引の形をとれば31条の利益相反規制も重なります。管理の対価を受け取りたいなら、信託行為に報酬の定め(54条)を置く必要があります。
解説
家族信託の契約書にハンコを押すと、実家の登記簿には長男の名前が載る。所有者欄は自分の名前なのに、一部屋も自由には使えない。信託法8条が定めているのは、このねじれである。受託者(財産を預かって管理する人)は名義上の持ち主になる。しかし受益者(財産から生まれる利益を受け取る人)を兼ねていない限り、信託の利益を受け取れない。条文には「何人の名義をもってするかを問わず」ともある。妻の名義で家賃を受け取る、自分の会社を通して得をする、といった迂回路もふさがれている(取引の形をとれば31条の利益相反規制も重なる)。あなたが受託者なら、使い込みとされる線は思っているよりずっと手前に引かれている。あなたが受益者や他の家族なら、通帳の動きを確かめる正当な根拠がこの一文にある。
法的な位置づけ
信託法第8条は受託者の利益享受の禁止を定める規定であり、受託者は受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず信託の利益を享受できないとする。名義・管理権と利益の帰属を分離する信託の基本構造を担保し、他人名義を用いた迂回的な利益取得も禁止の対象とする。
手順
- 1.受託者に信託事務の報告を求める 受益者として、信託財産の状況と信託事務の処理状況について受託者に報告を求める(36条)。口頭ではなく書面やメールで請求し、記録を残す
- 2.帳簿と信託口口座の閲覧・謄写を請求する 受託者が作成する帳簿など(37条)について、閲覧・謄写を請求する(38条)。信託口口座の入出金明細も対象として特定しておく
- 3.自己使用・身内への支払いを一覧化する 受託者本人による自己使用、配偶者や関係会社への支払いを、日付・金額・名義ごとに表にまとめる。無償居住は周辺相場をもとに賃料相当額を算出する
- 4.損失てん補を書面で請求する 一覧をもとに、信託財産への損失てん補(40条)を内容証明郵便などで請求する。30条・31条違反に当たる場合は利益額と同じ額の損失が推定される(40条3項)
- 5.解任・信託監督人の選任を検討する 請求に応じない場合は、受託者の解任(58条、裁判所への申立ても可)や信託監督人の選任(131条)を弁護士と検討する
よくある質問 AI による整理
Q1信託法8条とは?
受託者が信託の利益を受け取ることを禁じる規定です。受益者として受け取る場合だけが例外で、他人名義を使った迂回も禁止されます。
Q2家族信託の受託者は実家に住める?
受益者でなければ、原則として無償では住めません。住むなら賃料を信託財産に支払うか、信託契約で受益者に加える設計が必要です。
Q3受託者の使い込みは違法?
信託法8条・30条違反として損失てん補責任(40条)を負います。悪質な場合は横領罪が成立しうるため、弁護士への相談が勧められます。
Q4受託者の配偶者の会社に工事を発注できる?
相場より高い発注などで受託者側が実質的に得をすれば、8条の「何人の名義をもってするかを問わず」と31条の利益相反規制に当たりえます。
Q5受託者の使い込みはいつまで請求できる?
損失てん補請求には民法166条の消滅時効が基本となりますが、信託法43条に受益者を保護する特則があります。早めに証拠を確保するのが安全です。
Q6受託者の帳簿や通帳を見る方法は?
受益者は信託事務の報告を求め(36条)、帳簿などの閲覧・謄写を請求できます(38条)。まず書面で請求するのが一般的です。
Q7使い込みをした受託者は解任できる?
委託者と受益者の合意で解任できるほか、任務違反などがあれば裁判所に解任を申し立てられます(58条)。
Q8信託会社にも8条は適用される?
適用されます。信託会社にはさらに信託業法28条の忠実義務などが課され、業として受託する場合の規律はより厳しくなります。
この条文についての質問 AI による整理
Q1受託者って名義上の持ち主なんだから、ちょっとくらい使っても問題ないですよね?
問題になります。受益者でない受託者は信託の利益を受け取れず(8条)、忠実義務(30条)にも反します。損失のてん補責任(40条)を負い、得た利益と同じ額の損失があったと推定される場合もあります。実務のポイント:信託口口座の入出金は記録がすべて残ります。相続のときに兄弟が弁護士を通じて閲覧請求をすれば、何年も前の引き出しまでたどられます
Q2親の財産を管理する手間って、タダ働きなんですか?
信託契約に報酬の定めがなければ、原則としてタダ働きです。商人でない家族受託者が信託報酬を受け取れるのは、信託行為に定めがある場合に限られます(54条)。報酬は8条が禁じる利益享受とは別に扱われます。実務のポイント:契約を作るときに報酬条項を入れ忘れるケースは多いです。受け取った報酬は受託者の所得として課税されるため、金額は税理士と一緒に決めておくのが安全です
Q3受託者が受益者を兼ねるのはアリなんですか?
可能です。8条は「受益者として」利益を受け取る場合を除外しています。ただし、受託者が受益権の全部を自分で持つ状態が1年続くと、信託は終了します(163条2号)。実務のポイント:途中から子を受益者に加えると、対価のない受益権の取得としてみなし贈与課税(相続税法9条の2)の対象になりえます。受益者を誰にするかは、最初の設計で決め切るほうが安くつきます
間違えやすい点 AI による整理
- 「受託者は名義上の所有者なのだから、ある程度は自由に使える」と思われがちだが、実際は逆である。名義を持つことと利益を受け取ることは、8条によって切り離されている。受益者でない受託者が信託財産から得をすれば、それ自体が違反になる
- 「8条に違反しても、使った分を返せば済む」と考えている人は、責任の重さを見誤っている。違反行為は多くの場合30条(忠実義務)や31条(利益相反行為の制限)にも当たる。その場合、受託者本人や関係者が得た利益と同じ額の損失を信託財産に与えたと推定される(40条3項)。損失がなかったことを証明する負担は、受託者側に移る
- 「管理の報酬を受け取ると8条違反になるのか」という問いは、立て方が少しずれている。信託報酬は労務の対価であり、8条が禁じる利益享受とは別に54条で扱われる。問題は報酬を受け取ること自体ではなく、信託行為(信託を設定する契約など)に報酬の定めがあるかどうかである
- 受託者から見れば「家族の財産を、家族の自分が少し使っただけ」かもしれない。しかし法律から見れば、受益者の財産を管理者が流用した構図になる。この見え方の落差が、相続のときの兄弟間の争いを生む
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 規律の対象 | 信託法8条:受託者による信託の利益の享受そのもの | 信託法30条:受益者のため忠実に事務を処理する一般的義務 信託法31条:信託財産と受託者などとの間の利益相反取引 |
| 典型的な違反例 | 受益者でない受託者が信託不動産に無償で住む | 受益者よりも自分や第三者の利益を優先した運用 信託財産を受託者自身や身内の会社に売買・発注する |
| 例外・許容される場合 | 受益者として利益を受ける場合(報酬は54条で別に扱う) | 条文上の例外規定はなく、行為ごとに判断 信託行為の定め、受益者の承認など31条2項の要件を満たす場合 |
| 違反の効果 | 損失てん補責任(40条)など | 損失てん補責任、利益額と同じ額の損失推定(40条3項) 取引の無効・取消し(31条4項以下)、損失推定(40条3項) |
他国ではどう定めているか 4 か国
日本の旧信託法9条と同型で、例外は他人との共同受益者である場合に限られる。受託者が単独受益者を兼ねる設計は認められない点で現行日本法より厳しい
2011年の全面改正後も受託者の利益享受を原則禁止し、共同受益者の一人である場合を例外とする構造をとる
受託者は法定の報酬を除き信託財産を利用して自己の利益を図ってはならず、違反による所得は信託財産に帰属させる
duty of loyalty として受託者の自己取引・利益相反を広く規律し、受益者は該当取引の取消しを求めうる。日本法のような独立の利益享受禁止条項ではなく忠実義務に統合されている
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 受託者になった次男が、信託財産であるアパートの空室に自分で住み始めた。家賃は払っておらず、次男は受益者でもない。8条に違反する典型的なパターンで、賃料相当額は信託財産に生じた損失として、てん補(穴埋め)を請求される対象になりうる
- 受託者のあなたが「管理の手間賃」として毎月3万円を信託口口座から引き出していたら、どうなる? 信託契約に報酬の定めがなければ、商人ではない家族受託者は信託報酬を受け取れない(54条)。善意の手間賃のつもりでも、返還を求められる余地がある
- 姉が受託者を務める家族信託で、信託財産の修繕工事が、姉の夫が経営する工務店に相場より高い値段で発注されていた。名義が夫の会社でも、8条の「何人の名義をもってするかを問わず」と31条の利益相反規制がどちらも当てはまりうる
- 親が自分自身を受託者兼ただ一人の受益者とする自己信託を組んだ。この状態が1年続くと、信託は終了する(163条2号)。残された時間は1年であり、それまでに受益者を追加するなど設計を見直さなければ、仕組みそのものが自然に消える
- 友人に「家族信託の受託者になったんだから、実家に住めるよね」と聞かれた。受益者でない限り、原則として答えはノーである。
取るべき行動
被害を受けた側:1. 受益者として、受託者に信託事務の報告を求め(36条)、帳簿や通帳の閲覧・コピーを請求する(38条) 2. 受託者の自己使用や身内への支払いを、日付と金額ごとに一覧にする3. 損失のてん補(40条)を書面で請求し、応じなければ受託者の解任(58条、裁判所への申立ても可能)を検討する4. 今後の監視役として、信託監督人(131条)の選任も選択肢になる。悪質な場合は横領罪の成否を弁護士に相談する
訴えられた側:1. 自分で使った分は、賃料相当額などで速やかに信託財産へ精算する2. 帳簿(37条)を整え、支出ごとに根拠を説明できるようにする3. 今後も自分で使ったり報酬を受け取ったりする必要があるなら、家族の合意を得て信託を変更し(149条)、受益者への追加や報酬の定めを明記する。受益者を追加する場合は、みなし贈与課税(相続税法9条の2)に注意する4. 他の家族への説明を先に済ませ、疑念を広げない
時効(請求できる期限):8条違反そのものに固有の時効はない。損失てん補請求には一般消滅時効(民法166条:知った時から5年、権利を行使できる時から10年)が基本となるが、信託法43条に受益者を保護する期間の特則がある(最新の改正状況をご確認ください)。受託者がただ一人の受益者である状態が1年続くと信託は終了する(163条2号)
学説
通説:8条は30条の忠実義務を利益帰属の面で具体化した規定と理解される。「何人の名義をもってするかを問わず」は、配偶者や関係会社などを経由した実質的な利益移転も禁止の射程に含める趣旨とされる
旧法との比較:旧信託法9条は共同受益者の一人である場合に限って受託者の利益享受を認めていたが、現行法は受益者としての享受を広く認め、単独受益の弊害は163条2号の1年ルールで抑える構造に改めた
改正沿革 AI による整理
- 平成18年(2006年)信託法全部改正(平成19年9月30日施行) 旧信託法9条は「共同受益者ノ一人タル場合」を除いて受託者の利益享受を禁じており、受託者がただ一人の受益者になることは認められていなかった。現行8条は「受益者として」利益を受け取る場合を広く除外し、ただ一人の受益者を兼ねることも可能にした。そのうえで、その状態が1年続けば信託が終了する規定(163条2号)を設けて歯止めとした
改正の年表
- 1.大正11年(1922年) 新設:旧信託法9条として、共同受益者の一人である場合を除き、受託者が何人の名義をもってしても信託の利益を享受できない旨を規定
- 2.平成18年(2006年) 改正:信託法全部改正(平成19年9月30日施行)により現行8条へ。例外を「受益者として」享受する場合に拡張し、受託者がただ一人の受益者を兼ねることも可能とした
- 信託法 第30条受託者の忠実義務の一般規定
- 信託法 第31条利益相反行為の制限、迂回取引の規制
- 信託法 第40条違反時の損失てん補責任と利益額推定
- 信託法 第54条信託報酬は定めがある場合に限り可
- 信託法 第163条受託者単独受益1年継続で信託終了
- 信託業法 第28条信託会社の忠実義務、業者受託の特則
- 相続税法 第9条の2受益者変更時のみなし贈与課税
ログインすると、この条文にメモを残して他の利用者と共有できます。
ログインして共同ノートを始める