信託法 第85条(受託者の責任等の特例)
クイックジャンプ
- 受託者が二人以上ある信託において、二人以上の受託者がその任務に違反する行為をしたことにより第四十条の規定による責任を負う場合には、当該行為をした各受託者は、連帯債務者とする。
- 2.受託者が二人以上ある信託における第四十条第一項及び第四十一条の規定の適用については、これらの規定中「受益者」とあるのは、「受益者又は他の受託者」とする。
- 3.受託者が二人以上ある信託において第四十二条の規定により第四十条又は第四十一条の規定による責任が免除されたときは、他の受託者は、これらの規定によれば当該責任を負うべき者に対し、当該責任の追及に係る請求をすることができない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
- 4.受託者が二人以上ある信託における第四十四条の規定の適用については、同条第一項中「受益者」とあるのは「受益者又は他の受託者」と、同条第二項中「当該受益者」とあるのは「当該受益者又は他の受託者」とする。
この条文の基本情報
受託者の責任等の特例とは何ですか?
定義受託者の責任等の特例とは、信託法第85条に定められた規定で、「受託者が二人以上ある信託において、二人以上の受託者がその任務に違反する行為をしたことにより第四十条の規定による責任を負う場合には、当該行為をした各受託者は、連帯…」と規定しています。
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 信託法第85条(受託者の責任等の特例)は、日本の信託法に含まれる条文です。
- 信託法第85条の条文原文は「受託者が二人以上ある信託において、二人以上の受託者がその任務に違反する行為をしたことにより第四十条の規定による責任を負う場合には、当該行為をした各受託者は、連帯…」で始まります。
- 信託法第85条は第六節 受託者が二人以上ある信託の特例に置かれています。
- 信託法の公布日は平成18年12月15日です。
- 信託法について、LawPlayer が e-Gov法令検索から取得した令和8年7月4日時点では廃止情報はありません。
- 信託法第85条の前の条は信託法第84条です。
- 信託法第85条の次の条は信託法第86条です。
- 信託法第85条には、要件・効果とよくある質問をまとめた解説が本ページにあります。
この条文を引用する
下の三行はそのまま引用に使えます(法令番号・条番号・出典・取得日を含みます)。
- 正式書式
信託法(平成十八年法律第百八号)第85条 - 官報・e-Gov
e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108 - 本サイト収録
信託法(平成十八年法律第百八号)第85条(LawPlayer 収録、取得日 令和8年7月4日)https://lawplayer.com/jp/article/418AC0000000108/85
わかりやすく解説 AI による整理。効力は条文原文が基準です
要点信託法85条は、共同受託者が任務違反で信託財産に損失を与えたとき連帯して責任を負うと定め、他の受託者にも損失てん補請求と差止請求の権利を認める規定。
Q · 家族信託で兄と共同受託者になったら、兄の使い込みの責任まで負うの?
二人とも任務違反なら連帯で全額、兄単独の違反なら負わない
信託法85条1項により、二人以上の受託者がそれぞれ任務違反をして信託財産に損失を出した場合、各受託者は連帯債務者となり、どちらも全額の請求を受けえます。兄が単独で違反しただけなら、あなたは連帯責任を負いません。ただし帳簿を確認しなかった、内容を確かめずに賛成したといった事情は、あなた自身の善管注意義務違反とされるおそれがあります。また同条2項・4項により、あなたは受託者として、兄に損失てん補と差止めを直接請求できます。
解説
親の財産を兄弟二人で預かる共同受託の家族信託は、仲良く分担して管理する仕組みに見える。だが信託法85条を読むと、別の顔が見えてくる。受託者が二人以上いて、二人がそろって任務違反(信託契約や法律で決められた役割を外れること)をし、信託財産に損失を出したとする。その場合、二人は連帯債務者(それぞれが全額を払う義務を負う関係)になる。「自分の取り分は半分だけ」という言い訳は通らない(1項)。 一方で、この条文は守りの仕組みも用意している。損失の穴埋めや元の状態に戻すことを請求できるのは受益者(信託から利益を受ける人)だけではない。同じ立場の他の受託者も請求できる(2項)。違法な行為の差止め(やめさせること)も請求できる(4項)。兄が信託口座のお金を使い込んだとき、弟は受益者である親を通さなくても、受託者として直接兄を止め、穴埋めを求められる。 ただし落とし穴が一つある。受益者が兄の責任を免除すると、弟はもう兄を追及できない。信託契約に別の定めがあれば別である(3項)。共同受託を引き受ける前に、この三つの層を知っているかどうかで、あとの数年間の展開が変わる。
法的な位置づけ
信託法85条は、受託者が二人以上ある信託(共同受託)における受託者責任の特則である。任務違反をした複数の受託者を連帯債務者とし、第40条第1項・第41条の責任追及と第44条の差止請求の主体に他の受託者を加える。受益者が責任を免除した場合に他の受託者が追及できるかどうかは、信託行為の定めに委ねられる。
手順
- 1.信託口座と帳簿の証拠を確保する 信託口座の通帳、出金記録、信託財産の帳簿(信託法37条)の写しを確保し、不審な出金の日付・金額・相手先を時系列で一覧にする
- 2.信託契約の別段の定めを確認する 受益者が責任を免除した場合でも他の受託者が追及できる旨の定め(85条3項ただし書)や、意思決定方法の定め(80条)があるかを信託契約で確認する
- 3.内容証明郵便でてん補と差止めを請求する 相方の受託者に対し、40条・85条2項に基づく損失てん補・原状回復と、44条・85条4項に基づく差止めを内容証明郵便で請求する。受益者による免除の動きが出る前に送ることが重要
- 4.急ぐ場合は差止めの仮処分を申し立てる 信託財産の売却など処分が迫っている場合、弁護士と相談し、裁判所に差止めの仮処分を申し立てる。あわせて信託監督人・受益者代理人の選任申立て(131条・138条)も検討する
よくある質問 AI による整理
Q1共同受託者とは何ですか?
一つの信託で二人以上が受託者になることです。信託財産は受託者全員の合有となり、信託事務は原則として受託者の過半数で決定します(信託法79条・80条)。
Q2信託法85条の連帯責任とはどういう意味ですか?
任務違反をした複数の受託者が、それぞれ損失の全額を支払う義務を負うことです。受益者はどちらか一方だけに全額を請求できます。
Q3受託者の任務違反とは何ですか?
信託行為や信託法で定められた義務に反する行為です。善管注意義務(29条)、忠実義務(30条)、分別管理義務(34条)などへの違反が典型例です。
Q4受託者の損失てん補責任とは?
任務を怠った受託者が、信託財産に生じた損失を自分の財産で穴埋めする責任です(信託法40条)。てん補に代えて原状回復を求めることもできます。
Q5受託者の責任追及はいつまでできる?
債務不履行の損害賠償請求権の例により、知った時から5年、行使できる時から10年です(43条1項)。受益者の時効には特則があり、損失発生から20年で消滅します。
Q6共同受託者の一人が信託口座から勝手に出金するのは違法?
信託目的に沿わない出金は任務違反となり、損失てん補責任の対象です。私的流用なら業務上横領罪などの刑事責任が問題になる可能性もあります。
Q7家族信託で受託者を二人にすることはできる?
できます。ただし85条により任務違反の責任が連帯になるため、意思決定の方法や免除時の追及権について、信託契約で事前に定めておくことが重要です。
Q8連帯責任で全額払ったら、相方の受託者に請求できる?
できます。民法442条の求償権により、立て替えた額のうち相方の負担部分を請求できます。負担割合は任務違反への関与の程度などで決まります。
この条文についての質問 AI による整理
Q1兄が勝手にやったことなのに、なんで私まで払わされるんですか?
兄が単独でやっただけなら、85条1項の連帯責任はあなたには及ばない。連帯になるのは、二人以上の受託者がそれぞれ任務違反をした場合だけである。問題は、帳簿を見なかったことや、内容を確かめずに賛成したことが、あなた自身の善管注意義務(プロとして当然払うべき注意のレベル、29条2項)違反にあたるかどうかである。実務のポイント:「名前だけの受託者だった」という弁解は、むしろ監督を怠った証拠として扱われやすい。定期的に帳簿を確認した記録を、自分のために残しておくとよい
Q2受益者の母はもう判断できません。私が兄を訴えることはできますか?
できる。85条2項により、40条の損失てん補や原状回復を請求できる者に「他の受託者」が加わっている。受益者の代わりではなく、受託者としての固有の立場で請求する。差止めも同じである(85条4項)。実務のポイント:信託監督人や受益者代理人が選任されていれば、その人と足並みをそろえるほうが裁判所の印象がよい。選任されていなければ、その選任を裁判所に申し立てる(131条、138条)という手も同時に打てる
Q3父が兄の責任を免除しちゃいました。もう何もできないんですか?
信託契約に別段の定めがなければ、他の受託者は免除された責任を追及できない(85条3項)。ただ、免除そのものが有効かどうかは別の問題である。父に免除の時点で判断能力があったか、兄の働きかけがなかったかは、争う余地がある。実務のポイント:免除の書面の日付と、父の診療記録の要介護認定の時期を突き合わせると、意思能力の争点が浮かび上がることがある
間違えやすい点 AI による整理
- 「受託者が二人なら責任も半分ずつ」という感覚は、85条1項で崩れる。二人がそろって任務違反をすれば連帯債務者になり、受益者はどちらか一方に全額を請求できる。払った側が相手に負担分を求めるのは、内部の後始末にすぎない
- 深化型:相方の不正を見つけたとき、受益者に知らせれば足りると考えがちである。だが受益者が高齢で判断能力が落ちていれば、誰も動かないまま時間だけが過ぎていく。85条2項は、他の受託者に自分で請求する権利を与えている。この権利を使わずに放置した場合、それがあなた自身の注意義務違反を問われる材料になるかどうかは、実務上、解釈が分かれている
- 前提錯誤型:「兄の不正を最後まで追及できるか」という問いは、信託契約を作る段階で答えがほぼ決まっている。受益者が責任を免除すると、他の受託者は追及できなくなる(85条3項本文)。これを避けるには、信託行為(信託契約や遺言など信託を設定する行為)に別段の定めを置くしかない。もめてから条文を探しても、もう手遅れである
| 比較の観点 | この条文 | ほかの条文 |
|---|---|---|
| 規律の対象 | 信託法85条:共同受託における責任の連帯と追及主体の拡大 | 信託法40条:受託者の任務懈怠による損失てん補・原状回復責任 信託法44条:法令・信託行為違反行為の差止め |
| 請求できる者 | 受益者に加え、他の受託者 | 受益者(共同受託では85条2項で他の受託者も) 受益者(共同受託では85条4項で他の受託者も) |
| 責任の形 | 任務違反をした各受託者が連帯債務者 | 任務を怠った受託者個人の責任 金銭責任ではなく行為の停止 |
| 受益者による免除の影響 | 免除後は他の受託者も追及不可(信託行為で別段の定め可) | 42条の免除により責任が消滅 免除の対象外(将来の行為の停止を求める制度) |
他国ではどう定めているか 4 か国
台湾では受託者が数人いる場合、信託行為によって受益者に負う債務について連帯で弁済責任を負う。日本のように任務違反をした受託者に限定する構造とは異なり、連帯の範囲が広い点に注意
韓国も共同受託者の連帯責任を定めており、日本の旧信託法を起点とする継受関係にある。2011年の全部改正で規律が整理された
共同受託者の一人が信託目的に反して信託財産を処分した場合などについて、他の受託者の連帯賠償責任を定める
各共同受託者に、他の共同受託者の重大な義務違反を防止し、その是正を求める合理的注意義務を課す。日本の85条2項・4項の他の受託者による請求・差止めと発想が近い
AI による対応参考であり、公式の対照ではありません。各国の原文が基準です
想定される場面と対応 AI による整理
こんなときに使う
- 認知症が進んだ母のアパートを、兄と二人で受託者として管理している。ある月、兄が信託口座から300万円を自分の事業資金に回していたことが通帳で分かった。母に判断能力はもうない。受託者であるあなた自身が、兄に穴埋めと口座からの払出し停止を直接請求できる。85条2項と4項がその足場になる
- もし兄から「この修繕業者、俺の友人だから相場の2倍だけど通そう」と言われ、あなたも面倒で賛成していたら? 後で受益者から損失のてん補(穴埋め)を求められたとき、責任は二人の連帯になる。請求されるのは「言い出した兄の分だけ」ではない。あなたの預金にも全額の請求が届きうる
- 共同受託者の弟が、信託財産である土地を相場より安く知人に売る段取りを進めている。決済は来週の金曜日、残り5日しかない。売買が終わってから損害賠償を争うより、差止めを請求するほうが早い。仮処分(裁判所に急いで出してもらう暫定的な命令)の申立てまで含めて、今日から準備を始める必要がある
- 使い込みを追及しようとした矢先、受益者である父が「もういい、兄の責任は免除する」と書いた書面に署名した。信託契約に別段の定めがなければ、あなたはこれ以上兄に請求できない
- あなたは受託者の一人で、もう一人の受託者がした投資判断に深く関わらないまま賛成票を入れていた。損失が出た後、受益者から二人まとめて請求された。あなたにも任務違反があったと言えるかどうかが、連帯責任を負うかどうかの分かれ目になる
取るべき行動
被害を受けた側:1. 信託口座の通帳、出金記録、帳簿(37条で作成が義務付けられる信託財産の帳簿)の写しを確保する2. 相方の受託者に、40条と85条2項に基づく損失てん補・原状回復と、44条と85条4項に基づく差止めを内容証明郵便で請求する3. 処分が近いなど急ぐ場合は、差止めの仮処分を検討する4. 受益者や家族による免除の動きがないか確認し、信託契約の別段の定めの有無を弁護士と確認する
訴えられた側:1. 問題の行為に自分が関与していたか、どの段階で賛成したか、どんな情報を持っていたかを時系列で整理する。連帯責任を負うのは任務違反をした受託者だけである2. 受益者による免除(42条)が既にないか確認する3. 全額を支払った場合は、もう一方の受託者に負担部分を求償(立て替えた分を請求すること)できる(民法442条) 4. 受託者解任の申立てに発展する前に、帳簿を開示して話し合う余地を探る
時効(請求できる期限):損失てん補等の債権の消滅時効は、債務不履行による損害賠償請求権の例による(43条1項)。原則として権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年(民法166条1項)。受益者が、自分が受益者に指定されたことを知るまでは時効は進行しないが、任務違反で損失が生じた時から20年で消滅する(43条3項・4項)。差止めに期間制限はないが、実際には処分が終わる前に動けるかどうかがすべてである(最新の改正状況をご確認ください)
学説
立法趣旨(一般的理解):共同受託の目的の一つは受託者相互の監視にあり、85条は連帯責任と他の受託者の請求権・差止権によってこの牽制を実効化する。一方、損失てん補の利益は受益者に帰属するため、受益者による免除を優先させ、牽制をどこまで残すかは委託者の信託行為に委ねたと理解されている。
改正沿革 AI による整理
- 平成18年(2006年)信託法全部改正 大正11年の旧信託法を全面的に改める現行信託法の制定にあわせて、共同受託者の責任の特例として規定された。その後の改正の有無と内容は人による確認が必要
改正の年表
- 1.平成18年(2006年) 新設:旧信託法(大正11年法律第62号)を全面的に改めた現行信託法(平成18年法律第108号)の制定に伴い、共同受託者の責任の特則として規定された。平成19年(2007年)9月30日施行。その後の改正の有無は要確認
- 信託法 第40条任務懈怠による損失てん補・原状回復責任
- 信託法 第41条法人受託者の理事等の連帯責任
- 信託法 第42条受益者による責任免除
- 信託法 第44条受益者による受託者の行為の差止め
- 信託法 第80条共同受託者の信託事務処理の決定方法
- 民法 第436条連帯債務の効果の一般原則
- 民法 第442条連帯債務者間の求償権
ログインすると、この条文にメモを残して他の利用者と共有できます。
ログインして共同ノートを始める